けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

魔法の絵本①

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アマゾン・プライムは恐ろしい。右手の人差し指1本でいとも容易くショッピングができ、週末でも翌日配達。しかも、モノによっては当日配達も可能。あまりにも簡単すぎて、便利すぎて、とてつもなく恐ろしい。私のような衝動買いの常習犯には、危険すぎるサービスだ。ブリタニー・スピアーズの17年前のヒット作『Oops, I did again!』(あの曲がヒットしたのはそんなに昔のことなのかと実感するとこれまた恐ろしいが、あのビデオはなかなかお茶目でよかった)じゃないが、まさに「あっ、またやっちゃった!」の境地だ。配達業者は複数あるが、クリスマスや正月のような祝日でも配達してくれるところもある。配達業者に商品を託す前に注文を処理するアマゾンや小売業者の従業員も、とんでもない時間帯に就業しているのだろう。なんだか労働者の搾取に加担しているようで罪悪感にかられることもあるが、なんとも便利な世の中だ。

 

だが、ここの本題はアマゾン・プライムの恐ろしいほど便利なオンラインショッピングサービスではない。それを介して購入したアイテムのひとつである。事の始まりは、私が電子購読している雑誌『ヴェリイ』8月号に掲載されていた記事。この雑誌の主力読者層は私より10歳+下のアラサー世代だが、高齢出産した私の場合、自分の世代を対象とした雑誌に掲載されている子育て関係の記事は子供の年齢がイマイチ合わない。だから『ヴェリイ』の方が参考になることが多い。問題の記事は、「真夏の夜の寝かしつけ!」と題された、子供の寝かしつけテクニックに関するものだった。「2TIPS TO GET YOUR KIDS TO SLEEP」という英語の副題まで付いている。見開きページの右側は、「たった10分で寝かしつけ」と話題の世界的ベストセラー『おやすみ、ロジャー』を監訳した快眠セラピスト、三橋美穂さんのインタビュー。そして左側は、日本人で初めて「妊婦と子供の睡眠コンサルタント」の資格を取得したNY在住の愛波文さんという女性のインタビュー。2人の快眠スペシャリストが紹介する寝かしつけ方だから、「2TIPS TO…」という訳だが、何ゆえ英語の副題なのか。どちらも海外発のテクニックだからだろうか、などと勝手な詮索を展開しながらも、なかなか寝付かない4歳の娘を持つ私は、「10分で熟睡絵本!」というふれ込みのこの絵本にただならぬ好奇心を抱いた。そして、三橋美穂さんのインタビュー記事を読み終わった40秒後には、『おやすみ、ロジャー』の英語版をアマゾン・プライムUKで注文完了していた。これは、私の衝動買い史上最短記録だったかもしれない。

 

作者はスウェーデンの行動科学者で、物語の中には数多くの「眠くなるしかけ」があるらしい。自律訓練法という医療メソッドも盛り込まれているそうだ。この本を日本語訳する際には、リラックス効果があるような言葉を選ぶことにこだわったそうだ。翻訳の仕事もしている私にとって、非常に興味深い話である。英語版を購入したのは、こちらの方が手元に届くのが断然早いから。日本語版だと、アマゾン・ジャパンで注文して大阪の実家に発送してもらい、実家のジジ&ババ(私の両親)にお願いして英国の私の元へ送ってもらう、という手の込んだロジスティックスが必要になる。アマゾン・ジャパンからこちらへ直接発送してもらえば?と思う人もいるだろう。私がそれをしない理由は、過去にフランスからアマゾン・ジャパンで直接配送を指定して注文した本がフランスの税関に引っかかり、本の値段の3倍近くも関税で持って行かれるという苦い経験をしているからだ。(追記: 今思い出したのだが、関税だけで本の3倍近くになったのではなく、送料と関税の合計がそうだった)

 

とにかく、こうして『おやすみ、ロジャー』の英語版『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』 を衝動買いしてしまった。宣伝記事に踊らされているだけなのかもしれないが、三橋美穂さんの説明には説得力がある。それほど高価なものではないし(5.59英ポンド=約820円)、試してみる価値はあるかもしれない。木曜日の午後に注文し、手元に届いたのは翌日金曜日のお昼すぎ。しかも、プライムメンバーなので送料無料。さすがアマゾン・プライム。恐るべき便利さだ。アマゾンのボール紙封筒を開け、本を取り出す。英語版のタイトルの上部には、「A New Way of Getting Children to Sleep」と、期待できそうなキャッチコピーが掲げられている。「子供を寝かしつける新しい方法」 ― 実に頼もしい。我が家では、お休み前の本読みは夫が英語の本、私が日本語の本という役割分担になっている。そもそも、我が家で日本語を読めるのは私しかいないため、私が日本語を読むのは当然のことだが、夫が出張などで不在の時に、「ダディが恋しいから、ダディの本を日本語のフリして英語で読んで」と娘に(英語で)ねだられることがよくある。『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』 を衝動買いした日も夫が出張で翌日の夕方まで戻らないため、英語の本を数冊読み聞かせた。

 

翌日の金曜日に帰宅した夫に早速この本を見せ、私が『Very』で読んだインタビュー記事のことを説明すると、夫は「ほほう」とそれなりに関心を示した。その日の夜、娘は数日ぶりにネイティブスピーカーの夫が英語の本を読んでくれることに大喜びしていた。最近では、私が夫の代わりに英語の本を読んでいる際に単語の発音を間違えると、娘は横から訂正を入れてくる。嫌味のない、さらっとした訂正の仕方だが、4歳児とは言えなかなかチェックが厳しい。だからこの魔法の本も、英語版は夫が読まないと効果は出ないのかもしれない。だが、「Daddy, story please!」という娘のリクエストを受けて夫が最初に取り出した本は、私が待ち焦がれていた『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』ではなかった。

 

続く

娘の4歳の誕生日~ケーキ編④(これは、今年の5月に他のメディアに限定公開していた投稿に手を加えた記事)

とにかく出来た。これで娘とのお約束も、保育園に対する公約も果たせる。ストレスバンバンの朝であったが、重大な任務の一部を達成した満足感に浸りつつ、ケーキを冷蔵庫の中に入れた。これから30分間ほどエクササイズをし、シャワーを浴びてメイクをしたら、軽くランチを済ませてケーキを保育園に配達しよう。身支度をしてからケーキを冷蔵庫から取り出す。我が家には、ちょうどいい大きさのガラスの蓋つきチーズボードがある。これは、数年前に夫の上の娘2人(そう、私は継母でもある!)がクリスマスにプレゼントしてくれたものだ。これはケーキの配達に役立ちそうだ。ケーキを置いてみると、本当にぴったりのサイズであった。だが、これも慣れている人なら、最初からケーキを運ぶための箱を用意しているだろう。ちょっとチーズ臭い気がしたが、まあいいだろう。これを自分の車で配達する訳だが、座席上でしっかり固定させないと、急ブレーキを踏んだら大変なことになる。まずは、玄関のドアを開け、車のドアも大きく開けてから、ケーキの入ったチーズボードを運ばなければならない。ボードを抱えながらドアを開けようとすれば、とんでもないアクシデントが発生しかねない。慎重に動いたため、ケーキを車の中に運ぶ作業は無事クリアできた。

 

次にケーキを助手席に固定する。このガラスの蓋つきチーズボードは本当に役に立った。写真のように、シートベルトでガラスの蓋を固定した。これから安全運転でいざ、娘の保育園へ!

 

保育園に着くと、先生たちがケーキを見て感嘆の声をあげてくれた。
「Wow, it looks gorgeous! Looks beautiful and yummy!」などの(少し大げさな)誉め言葉をいただいた。単なるお世辞かもしれないが、そう言われるとやはり嬉しくなる単純な私。子供たちはまだ私とケーキに気が付いていない。園長先生の事務所にそっと忍び込むと、娘のクラス担当の先生が、「4」の形をしたロウソクにマッチで火をつけてくれた。その間にもう1人の先生が子供たちを集め、「今日は誰のお誕生日か知ってますか?娘の4歳のお誕生日です。みんなでHappy Birthdayを歌いましょう!」と呼びかけた。子供たちが娘のために『Happy Birthday』を歌い始めたので、私は事務所からケーキを持って子供たちのほうへ進んだ。

 

今日はお誕生日なので特別に白雪姫のコスプレ姿で保育園に来ていた娘は、他の子供たちに取り囲まれて照れくさそうに立っていた。私が運んできたケーキを見ると、子供たちは一斉に歓声を上げた。嬉しそうに飛び跳ねている子もいる。なんて無垢なんだろう。娘は「Mummy! オカアサン!You really really made it!」と目を輝かせて喜んでくれた。あー、やっぱり頑張ってバースデーケーキを作ってよかった!

『Happy Birthday』を歌い終えると、英国ではたいてい「Hip hip, Hooray!」と3回喝采を送る。興味のある人はこちらを参照:https://ja.wikipedia.org/…/%E3%83%92%E3%83%83%E3%83%97%E3%8…

喝采を受けた娘は、照れながらロウソクの火を吹き消すタスクにとりかかった。ところが、緊張していたのかうまく吹き消すことができず、私に助けを求めてきた。母子一緒に揃って吹くと炎は消えた。

 

子供たちは今すぐケーキを食べたいと言い出したが、まだおやつの時間ではなかったのでしばらくお預けということになった。私は仕事が残っているのですぐ家路についた。助手席に乗せた空のチーズボードを見て、何とも言えない達成感を覚えた。

 

その日、娘をお迎えに行ったのはロンドンからちょうどいい時間に帰ってきた夫。彼の話によると、ケーキは大好評だったとかで、ひとかけらも残っていなかったそうだ。先生たちも食べたらしく、とても美味しかったとのこと。ゴムベラについていたスポンジの生地や、ボウルに残っていたホイップクリームはちょっと舐めて味見していたが、ケーキそのものは食べていないので少し不安であった。まあ、本の分量通りの材料で作ればよっぽどのことがない限り、「不味い」ものにはならないと思うが、スポンジの上半分が板のように硬かったのではないかと心配していた。だが、みんな心から感心してたと夫が言うので、大丈夫だったのだろう。安堵した。

 

では、ご当人の娘の判定は?「お母さんが作ったケーキ、美味しかった?」と尋ねると、「うん。But I didn’t like the cream…」と顔をしかめた。どうやら、ホイップクリームを残してスポンジとイチゴだけ食べたらしい。うーむ。。。人工着色料が大量に使われていそうなアイシングで覆われた市販のケーキなら、このアイシングの部分しか食べない娘。そんな彼女がスポンジとイチゴだけ食べたということは、ケーキの核心は上出来だったということだろうか。そういうことにしておこう。

 

というわけで、なんとかMission Accomplished! しかし、強烈なストレスに見舞われた半日だった。たかがバースデーケーキ作りで心身ともにここまで疲労するとは。。。
慣れないことをするなら、やはり数日前にリハーサルしておくべきであろう。教訓。

娘の4歳の誕生日~ケーキ編③(これは、今年の5月に他のメディアに限定公開していた投稿に手を加えた記事)

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幸いなことに、ノーメイクでむさ苦しい姿をご近所さんや知り合いに見られることなくミッションを遂行し、帰宅することができた。オシャレなトレーニングウェア姿(雑誌『ヴェリイ』用語では「アスレジャー」と言うらしいが)であれば、スポーツジムに通っているかのようで格好がつくが、自宅内でエクササイズをするつもりでいたので、上下のカラーコーディネーションとデザインともにちぐはぐだったから、ただのダサいオバハンにしか見えなかったと思う。パリ時代の私はこんな姿で外出することなど一切なかったはす。。。

 

とにかく卵を入手したので、再び生地作りの作業にとりかかることにした。買ってきた卵ケースは保冷棚ではない普通の陳列棚にあったものなので、すでに室温になっている。「人肌程度」が理想的ということなので、ぬるま湯をはった洗面器(?)の中で泡立て始めた。するとさっきとは打って変わり、面白いほど素早くふわっと泡立つではないか!そして出来上がった補足分の生地を流し込もうとケーキ型に向かった。最初に入れた生地がボテッと重そうな形相でケーキ型の底に薄い層を作っている。よく見ると、出来たての補足分生地より色がかなり濃い。焼き上がったらどうせ半分にスライスするのだから、上と下で色の違う層になっていてもかまわないかと思ったが、やはりさっくりと混ぜ合わせることにした。

 

これで生地は出来上がり。後は180度に温めたオーブンに入れて40分焼くだけ。最初の計画では、この間にエクササイズをするつもりであった。しかし、ハプニングの連発でキッチンはひっくり返っている。まずこれを片づけて、ワークスペースを清潔にしなければならない。もう必要のない材料は元の場所に戻し、卵の殻やケースの空箱を捨てる。泡立て器やゴムベラ、ボウルを丁寧に洗って、ワークスペースの表面を台拭きで拭く。先ほどあまりにも必死に卵液を泡立てようとしていたため、床にまで飛び散ってしまっていた。フロア用雑巾でそれを拭き取り、手を洗ってからホイップクリームの材料と道具を並べる。オーブンからスポンジケーキの美味しそうな匂いが漂ってきた。窓からちょっと様子を見ると、なかなかいい感じに焼き上がってきているようだった。

 

エクササイズをするには中途半端な時間になってしまったので、別のタスクに取りかかることにした。こうして40分が経過し、オーブンのタイマーが鳴る。焼き上がったスポンジケーキをオーブンから取り出し、ワークスペースで冷ました。香りはとても良い。成功か?スポンジケーキを冷ましている間にホイップクリームを作った。こちらは何の問題もなく、きれいにできた。そして、冷めたケーキ型を逆さまにし、ケーキ台の上にスポンジケーキを押し出した。最初の生地と補足分をまんべんなく混ぜたつもりだったが、上半分が微妙に硬くて重い。。。これを半分にスライスし、下側の表面にホイップクリームを塗る。パレットナイフがないので、シリコンのヘラを使って塗ろうとしたが、クリームがヘラにへばりついてなかなかきれいに塗れない。食事用のナイフとシリコンベラの両方を駆使し、表面を可能な限り滑らかにする。今度はその上に、半分に切ったイチゴを並べていく。さすがに直径23cmのケーキには大量のイチゴが必要だった。今度は上側のスポンジケーキの裏面にホイップクリームを塗り、それをイチゴを並べた下側のスポンジの上にそっと置く。このサンドイッチの側面にホイップクリームを塗る作業にさらに手間取った。本の写真ほどきれいに塗れていないが何とか恰好はついたので、ケーキ表面のメインデコレーションにとりかかった。

 

これもケーキ作りに慣れている人ならお茶の子さいさいなのだろう。私がトロくて時間がかかりすぎたせいか、ホイップクリームが若干柔らかくなり、イメージしていた美しい波形のデコレーションができなかった。カラフルなデコレーション用砂糖菓子をちりばめ、ホイップクリームデコレーションの不細工さをカバーする。

 

こうして出来上がったのが写真のケーキ。頭の中で思い描いていたものとはかなり違う。乙女時代はもっと上手に、手際よく、美しく美味しいケーキを作っていたと思うが。。。

 

続く

娘の4歳の誕生日~ケーキ編②(これは、今年の5月に他のメディアに限定公開していた投稿に手を加えた記事)

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お菓子作りに慣れている人ならきっと、こういう時に何をすべきか心得ているに違いない。乙女時代の私は結構頻繁にケーキやクッキーを焼いており、腕もなかなかだったと記憶している。自分に都合のいいように記憶を「書き換え」ているだけなのかもしれないが。だが、留学中はお菓子を作っている暇などなかったし、道具も持っていなかった。フランスで社会人になってからは道具をある程度揃えていたが、お菓子を手作りしたことはめったになかった。今の夫と結婚してからケーキやクッキーを焼いたことは何度があったが、一度だけ自分でも信じられないほど美しい出来栄えのラズベリーパブロバを作ることに成功して以来(4年ぐらい前の話)、満足のいく結果を出せていない。それをオーブンとの相性のせいにしている私だが、果たして真相はどうなのだろうか。

 

とにかく、生地を足さなければ、あまりにも薄っぺらく、みすぼらしいスポンジケーキになってしまう。これでは娘が笑いものだ。ダメ母のせいで惨めな思いをさせたくない!そこで、再び同じ分量の材料を用意し、卵を電動泡立て器で泡立てに着手した。 ところが、いくらやってもふわっと泡立たない。湯銭しながらやっても、泡立て器の強度を最大にしてやっても、砂糖入り卵液の状態のまま。な…何ゆえに!こういう時、私はググる。インターネットの時代でよかった。もし、インターネットがなかったら、どうしていただろう。国際電話で母や姉に相談する訳にはいかない。そんなお金はない。では、プライドを捨てて、ご近所の奥様達に聞いてみるか。いや、やはりプライドは捨てられない。本当にインターネットがあって助かる。仕事でも、インターネットがなければ途方に暮れているだろう。

 

ググった結果、卵が泡立たない理由として考えられるのは、1)湯銭のお湯など、水分がボウルに入ってしまった、2)油分も泡立ちを妨げる、3)卵は1時間ぐらい前に冷蔵庫から出して常温にしておくべき、などのようだ(Yahoo知恵袋)。1)は絶対に違うと確信してる。では2)は?そういえば、慌てて補足分の生地を作ろうと、最初の生地が入っていたボウルを洗わずにそのままそこに新しい卵を割って入れた。つまり、最初の生地にはバターも入っていたわけで、この油分が泡立ちを妨げているのだろうか。しかも、急いでいたので、補足分の生地に使う卵は冷蔵庫から出してすぐに割って入れた。ということは、2)と3)のダブルパンチ。。。

 

これではいくら泡立てても無駄だと見限り、この卵液を捨てて再びゼロからやり直すことにした。今度はボウルも泡立て器もちゃんと洗って食器ふきんで丁寧に拭いて乾かす。卵は。。。と冷蔵庫を開けてみると、卵ケースがない!キッチンカウンターを見渡すと、6個入りケースが1箱あったが中身は空!えっ、そんな!確か昨日1ダース分(6個入り2ケース)買ったはず。。。な、なんでやねん!!(久々の大阪弁

 

最初の生地に3個使い、さっきの卵液に3個。これで1ケース消化。だが、もう1ケース残っているはず。しかし、よーくよく考えてみると、実は昨日、ゆで卵に2個使ってしまっていた。しかも今朝、スクランブルエッグに4個も使ってしまったのだ!なんたる致命的なミス!何を考えていたのだろうか。普段は朝食にスクランブルエッグなど作って食べたりしないのに、何ゆえ、何の虫に刺されて、この一大イベントの朝に貴重な卵を4個も使ってスクランブルエッグなど作ってしまったのか!たわけ者が!

 

嘆いていても仕方がない。時間が過ぎていくだけだ。そこで私はすっぴん顔+トレーニングウェア姿のまま(さすがにエプロンは外した)で愛車(マツダ2:和名カペラ)に飛び乗り、ハイストリートのコンビニ風テスコに向かった。ラッキーなことにストアのすぐ前の駐車スペースが空いていたので、素早く縦列駐車。自慢ではないが、私は縦列駐車が得意だ。一般的に女性は縦列駐車が苦手だと言われている。フランスでも、ここ英国でも、女性の縦列駐車は下手をすれば女性蔑視として訴えられかねないジョークの対象になっている。後続車からプレッシャーがかかっている時でも焦らず、なかなかの腕前を見せる私は、男性ホルモンのテストステロン値が高いのだろうか。

 

こうしてテスコで無事に卵6個入りケースを2ケース購入することができ、急いで家に帰った。

 

続く

娘の4歳の誕生日~ケーキ編①(これは、今年の5月に他のメディアに限定公開していた投稿に手を加えた記事)

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「慣れないことはするもんじゃない」とよく言うが、確かにその通りかもしれない。

 

娘の4歳の誕生日のためにバースデーケーキを作ろうと、まず数週間前から心の準備をしていた。さらに、やると決めたことを本当にやり遂げるため、先週の金曜日に娘の保育園の先生たちに向かって、娘の誕生日当日にバースデーケーキを焼いて持って行くと宣言し、自分にプレッシャーを与えた。次に、料理本の山の中から、乙女時代に買った『Non-noお菓子百科』(なんと1988年版!)を引っ張り出し、バースデーケーキのレシピを探す。この本に載っているバースデーケーキのデザインはイマイチだが、必要なのは材料と分量、手順。スポンジケーキにホイップクリームでデコレーションを施した古典的なものなので、これを参考にすることにし、ページの間に娘がお絵かきした紙切れをしおり代わりに挟んでおいた。

 

そして前日。本で材料と分量を再チェックしてスーパーへ買い出しへ。ガーリーなデザインが好きな娘のために、カラフルなトッピング用の砂糖菓子も購入。万が一のために、生クリームと卵は多めに買ったつもりだった。我が家にはスポンジケーキ用のケーキ型がなかったのでこれも購入。コーンスターチを買い忘れたが、片栗粉があるのでこれで代用しよう。自分へのプレッシャーをさらに高めるため、昨日の夜、お風呂上がりの娘に、「明日、お母さんがバースデーケーキを焼いて、学校(保育園のこと)に持って行ってあげるからね!」と伝えた。すると娘は大喜びで、「Snow White(白雪姫)のケーキがいい!!」と叫び、飛び跳ねた。白雪姫のケーキ。。。それはレベルが高すぎる。。。「まあ、お楽しみに!」とかなんとかごまかしてその場を逃げ切った。翌朝の重要なタスクに備え、その晩は早めに寝ることにした(とは言ってもベッドに入ったのは零時過ぎ)。

 

そして本番の朝。打ち合わせでロンドンに行くことになっている夫が、娘を保育園に送って行った。私はケーキをオーブンで焼いている間にエクササイズをするつもりでいたので、ノーメイク&トレーニングウェア姿にエプロンをまとい、材料を並べ始めた。卵は室温に戻し、バターは湯銭で溶かす。その合間に、今朝納品しないといけない仕事をメールで送信。もう一度本で手順をチェックし、卵を泡立てることから始めた。もちろんその前に、オーブンを180度に温め、ケーキ型にバターを塗って小麦粉をまぶし、底に丸く切り抜いたベーキングシートを敷くという作業は済ませてある。

 

出来上がった生地をケーキ型に流し入れてみると、異様にかさが低い。ケーキ型の高さの4分の1もない!何でなんだ!と本を再々チェックすると、このレシピの分量は直径18cmのケーキ型用。私が使ったケーキ型は、直径23cm。。。 5cmの差がこんなに露骨に出るとは!慌てて補足する生地の製作に取り組んだ。

 

続く

服従の心理〜②(注:これは2016年2月に他のメディアに限定公開していたものに手を加えた記事)

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この、「ストリップサーチいたずら電話詐欺事件」は、2004年に犯人が逮捕されるまでの10年もの間、アメリカの30の州で70件を超える犯行が記録されていたというから、これまた衝撃的だ。この詐欺事件の「被害者」たちは、ストリップサーチに始まる虐待を受けた人物を除くと、「加害者」でもある。だが、この映画の中心人物であるマネージャーは、自分はよき市民として捜査に協力していただけだと主張する。

 

狂人でもない、ごく平凡な人物が、権威に屈し、冷酷で人の道を外れた行為を行った事例は、世界の歴史上無数に存在する。この映画の冒頭で言及されている「ミルグラム実験」が実施された背景には、ナチスの戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判があった。ナチス・ドイツユダヤ人の強制収容所への移送を指揮していたアイヒマンは、逃亡生活を送っていたアルゼンチンから1960年にイスラエルへ連行され、人道に反する蛮行や戦争犯罪で裁判にかけられた(有罪判決を受け、1962年6月1日に絞首刑で処刑されている)。裁判で描き出されたアイヒマンの人物像は、家族愛に溢れる平凡で真面目な一介の公務員であった。このことから、「アイヒマンをはじめとするナチスの戦犯の多くは、命令に従っていただけなのか。ごく普通の人間でも、一定の条件下では残虐行為を犯すものなのか」という疑問が提起された。「アイヒマン実験」とも呼ばれるこの実験の結果はそれを実証するものであったが、だからと言ってそれは、このような人の道を外れた行為を容認するものではない。

 

権威は、国家や人種、民族、氏族、宗教、企業、学校、クラブなど、様々な規模の様々な形態をとる。そして権威の指示で、人が人として許されない言動に走る。それは、文明が著しく進化したとされる現在でも続いている。

 

人間の言動に衝撃的な影響を及ぼすのは「服従の心理」だけではない。自分を定義する何らかの組織に属したいという人間の「帰属願望」や、そのような組織に自分が属していると感じる「帰属意識」も、時に恐ろしい顔を見せる。

 

私が好きなレバノン人作家、アミン・マアルーフの作品に、『Les identités meurtrières』という論文がある。このフランス語の原題を訳すのは難しいが、「殺戮を引き起こすアイデンティティ」といったところであろうか。この作品はあいにく日本語には訳されていないようだが、英語版はある。英語の題は、『In the Name of Identity: Violence and the Need to belong(試訳: アイデンティティの名の下に: 暴力と帰属願望)』。この作品の中で、マアルーフは人間の「帰属願望」や「帰属意識」が、個人的な暴力や、テロ、戦争などの集団的な暴力の背景にあることを議論している。この論文が出版されたのは、9/11が起こる3年前のことだ。

 

確かに、自分が属する「組織」が攻撃されている、または迫害されていると感じた一個人が、暴力や破壊的行為を行うというのはよくあることだ。また、「帰属意識」とは少し性質が異なるが、組織や自分の役職の権威を笠に着て、パワハラやセクハラなどの卑劣な行為を平気で行う人物もよくいる。そして、組織の不正・不当に正面から立ち向かう者や良識から異論を唱える者が、非難や中傷、攻撃の対象になったり、あたかもペスト患者であるかのごとく、社会から一方的に背を向けられる事態も頻繁に起こっている。それは何故なのか。「服従の心理」と「帰属意識」の根底には、人間の「自己保身の本能」があるのだろう。しかし、権威や帰属意識に良識を覆されてしまうとは、人間は何とも悲しく愚かな存在なのだ。

 

それでも、己の身の危険をかえりみず、ユダヤ人を匿ったり助けた人々は多くいる。実は、私たちの知り合いの中にもいる。また、スティーブン・スピルバーグ監督作品の『ブリッジ・オブ・スパイズ』で主人公として描かれている冷戦時代の米弁護士は、米国社会全体から非難を浴び、暴力を受けても、「すべての人々が弁護士による弁護を受ける権利を持つ」という信念を貫き、ソ連のスパイとして逮捕された人物の弁護を続けた。これらは、人間が「服従の心理」や「帰属意識」に支配されず、decency (良識)や integrity(倫理に基づく誠実さ)を維持することができるという証拠ではないか。

 

この映画『Compliance』を観終えた私たちは、何とも表現し難い後味の悪さとともに、失望感と希望が入り混じった複雑な思いに包まれた。

 

服従の心理〜①(注:これは2016年2月に他のメディアに限定公開していたものに手を加えた記事)

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先日、久しぶりにテレビで大人の映画を観た。「大人の映画」と言っても、決してエロものではない。娘を中心に展開する日々の暮らしでは、テレビ鑑賞は幼児向け番組がほぼ99%。ニュース番組を少しでも観ることができれば上出来だ。では夜はどうかというと、夕食の後に娘を入浴させ、8時30分から9時の間に娘を寝付かせようとするが、一緒に寝入ってしまうのがお決まりのパターン。夜中に目を覚まし、仕事が残っている時は徹夜。それ以外は、洗面と歯磨きを済ませると、そのまま寝てしまう。

 

先日はめずらしく娘がベッドに入ってすぐに寝付いたので、数日前に録画してあった「大人の映画」を観ることができた。『Compliance (邦題:コンプライアンス 服従の心理)』という、2012年にアメリカで公開された作品だ。日本公開は2013年6月末だったらしい。これは、2004年にアメリカのケンタッキー州で実際に起きた「ストリップサーチいたずら電話詐欺事件」をベースにした物語である。非常に後味の悪いストーリーなので、万人にお勧めという映画ではない。だが、人間の恐るべき一面を深く考えさせられる作品なので、多くの人に観て欲しいと思う。

 

冒頭に映し出される黒い画面。そして白い文字が衝撃的なメッセージを表示する。1961年に実施された実験で、人間は権威的な存在からプレッシャーを受けると、その権威に服従し、良識に反した非人道的な行為をも行うことが証明されたという。そしてこの実験結果を裏付けるような出来事は、実際に数多く起こっていると。この実験とは、権威者の指示に従う人間の心理を調査した、イエール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムによる「ミルグラム実験」のことを指しているらしい。この実験の詳細は、日本心理学会やウィキペディアの記事に示されている(http://www.psych.or.jp/interest/mm-01.htmlおよび https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ミルグラム実験)(はてなブログ掲載時に追記:数ヵ月前にこの実験を描いた映画『Experimenter(邦題は、機能性をそのまま商品名にした健康食品のように長くてあまりにもそのまますぎる『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』)』を観た。『Compliance』と合わせて観ると、さらに面白みが増すのでお勧め)。そしてメッセージは、この映画のストーリーが現実に起こった事件を基にしたものであり、事実の誇張は一切行っていないことを宣言する。

 

ある日、ファーストフード店の真面目なマネージャーである中年の女性が、警察官と名乗る男性からの電話を受ける。その「警察官」は、彼女の店で働く若い女性従業員が客から金を盗んだという通報を受け、現在極秘の捜査中だと言う。そして、容疑者の家宅捜査中で現場を離れることが出来ないため、彼女に自分に代わって容疑者の女性の身体検査をするように指示する。指示はすべて電話で行われ、他の従業員のみならず、マネージャーの恋人や常連客も巻き込んでいく。そして身体検査はやがて、信じ難い虐待行為にまで発展する。

 

観ている私たちは何度も苛々させられ、歯がゆい思いをした。なぜ、こんなにも簡単に、電話で警察官と名乗っているだけの人物の言いなりになるのか。指示の内容はどんどんエスカレートし、どう考えても人の道に反する行為を求められる。指示される人物は、不審に思いつつも結局指示どおりに行動する。受話器の向こうの相手がためらうたびに、「警察官」は威圧的な口調で巧みに議論する。だが、指示を受ける側は、面と向かって拳銃を突きつけられている訳ではない。

 

夫と私は、「ここでおかしいと思ってやめなかったら、アホとしか言いようがないだろっ!」と何度もテレビに向かって叫んだり、あまりの信じ難さに首を振った。

 


続く