けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

Superdry 極度乾燥(しなさい)と私 ~その ④

そんなこんなで、Superdry 極度乾燥(しなさい)の店舗の前を通りかかるとほぼ毎回立ち寄るようになった私であったが、実際に購買に踏み切ったのは今年の3月下旬になってからのことだった。

 

それまではアイテム(95%がパーカー)を手にしたり、試着してみたりして、レジのすぐ手前まで近づいたことが何度もあったのだが、いざとなると、「そんな意味不明の日本語が書かれた流行りアイテム着るなんて、恥ずかしくないん?」という理性の声(というよりも自尊心の声)が頭の中で鳴り響き、葛藤にもがいた末、最終的には購買を断念するというパターンを繰り返していた。

 

それが、約3週間の日本滞在へ向けて旅出つ当日のこと。乗ることになっていたヒースロー空港からのインチョン経由成田行き便は18時50分発であったので、渋滞につかまらなければ空港までタクシーで25分程度で行ける地域に住む私たちは、出発直前の買い物に出かけた。行先は自宅から車で15分弱の距離にある、英国王室の居城で名高いウィンザー。ここにもSuperdry 極度乾燥(しなさい)の店舗がある。実は、「Superdry 極度乾燥(しなさい)と私 ~その ②」で掲載した写真の店舗がそれだ。

 

買い物の本来の目的は、家族や友人、取引先に贈る英国土産であった。英国の海外PR主力艦である王室のウィンザー城があるこの町には、英国王室好きが多そうな日本の人々への土産にうってつけのアイテムが数多く売られている。ヒースロー空港内のストアでも買えるものは山ほどあるが、やはり「本場」城下町で仕入れたものだと精神的に格が数ランク上になる。それを狙ってウィンザーに足を運んだのだが、その実、私の秘められた真の目的は、Superdry 極度乾燥(しなさい)の店舗に立ち寄ることであった。

 

3月下旬となると、日本では春うららで桜が美しい時期だが、英国はまだまだ肌寒い。特に今年の3月は2度も寒波が襲い、日本へ出発する1週間前には我が家の地域も大雪に見舞われたほどであった。そのため、英国出発時にはまだ冬用のアウターが必要だが、日本に到着すると暖かくて必要なくなる。ダウンジャケットやコートだとかさ張ってしまい、ただでさえ荷物の多い子連れ旅の私たちには邪魔になるだけだ。だからその解決法は重ね着である。英国を出る時には数枚のレイヤーを重ね着し、日本到着後はそれぞれのアイテムを単品で着回しする。私がその時構築していた出発時の重ね着ファッションは、アマゾンでネット注文した元祖ワンダーウーマンの半袖Tシャツ+厚めのパーカー+レザーのバイカージャケットに、長時間のフライトで腰が痛くならないようにジーンズは避け、楽チンフィットのジョガーパンツというコーデであった。

 

そこで、Superdry 極度乾燥(しなさい)のパーカーを今度こそ入手しようと心に決めたのだ。奇妙な日本語がデカデカと書かれていないものなら、日本でも堂々と胸を張って着ていられる。しかも、まだ日本未上陸のブランドだから、希少価値があってカッコいいではないか。一刻も早くSuperdry 極度乾燥(しなさい)のパーカーを物色したい私は、ウィンザーに到着すると、土産物の選択を夫の裁量に任せることにして、Superdry 極度乾燥(しなさい)の店舗に直行した。

 

こうしてついに手に入れたのが、遠くからはホワイトにも見える杢ライトグレーの地にターコイズのSuperdryヴィンテージロゴが左胸にさり気なく刺繍されたパーカー。上から下まですっとんカットのユニクロものとは異なり、ウェスト部分がくびれフィットになっていてスタイリッシュなうえ、素材の質感も絶妙だ。ヴィンテージロゴには例の中国語の簡体のような文字も付属しているのだが、このモデルの場合はシルバーの糸で刺繍されており、そのサイズもかなり小さいのでまったく目立たない。

 

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これがそのヴィンテージロゴ


入手したパーカーが収められた派手なオレンジの紙袋を提げて店舗を後にし、夫と娘に合流すると、夫の視線はやはり自然とその紙袋に注がれた。無言でからかうような笑顔を夫に向けられた私は、このウィンザー遠征の真の目的がこれであったことを白状せざるを得なかった。だが、購入した杢ライトグレーのパーカーを見せると、「おっ、いいじゃん、それ!」と夫は(英語で)褒めてくれた。

 

それでもまだほんの少し自尊心に後ろ髪を引かれていた私は、帰宅するとベッドの上にこのパーカーを広げ、その一部をiPhoneで撮影し、自虐ギャグのノリで次のようなコメントを添えて自分のFBに投稿した。

 

「これまで私は、奇妙な日本語を使っている(一説によると、意図的であるとのこと)このブランドのものは一切買わないと誓っていた。

にもかかわらず、日本へ向けて旅立つその日に、衝動的にこのアイテムを買ってしまったのだ。しかも私は、このブランドの対象年齢層を最低でも20歳は超えている。

私は一体何を証明しようとしているのだろうか。。。

ミッドライフ・クライシス???」(注:原文は英文)

 

すると、投稿してから数分後に、ドイツ在住で私と同世代の日本人女性W子さんが、「五年ぐらい前に数枚買って、未だ着てるよ。ふつーに😅」というコメントを寄せてくれた。彼女のこの一言で私は突如、自尊心の足枷から解放され、「ああ、これでいいんだ!もうくだらない意地を張らないで、好きなら好きって正々堂々と全身で表現すればいいんだ!」という清々しい気持ちと感謝の念に包まれた。W子さん、ありがとう。貴女のおかげで、素直にSuperdry 極度乾燥(しなさい)を愛することができるようになった。この時の私の体内にはドパーミンがほとばしっていたことであろう。

 

自尊心のしがらみから解放された私の幸福感は、ぼかし加工を施した下の写真からでも見て取れるのではないだろうか。

 

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ヒースロー空港出発前の娘と私。Superdry 極度乾燥(しなさい)のパーカーとレザーのバイカージャケットの重ね着姿

 

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こちらは新潟の海岸にて

 

この写真から分かるように、このモデルではジッパーのスライダー部の引手が2つ重ね構造になっており、下の引手はロゴのカラーとマッチしている。実に何気ない演出なのだが、これが何とも素晴らしい匙加減だ。フード部には、一般的な「紐」ではなく、幅広の平たいテープのようなロープが通っている。そしてその右先端には、ブランドの公式ロゴ入りラベルが縫い付けられていて、これがまた憎らしいほどカッコいい。

 

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これ!


 

ああ、惚れたよ、本当に!

 

続く