けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

女子力~その①

「女子力」という表現を耳にしたのはいつのことだっただろうか。

 

四半世紀も海外で生活している私は、日本語の流行語や新語に疎い。インターネットや電子書籍が一般家庭にも普及している昨今では、まだそのようなものが珍しかった(私の)留学生時代や新人社会人時代と比較すると、日本にいる人々との認知度の遅れは多少改善されたと思うが、それでもやはりギャップはまだまだ大きい。

 

仕事上、多様な分野で基本的な情報をネットで色々検索することがよくあり、その度に新しい表現に出くわす。2017年の8月中旬に投稿した「日本語進化論」シリーズでも触れているが、言語というものは時代とともに進化するというのはどの言語にも当てはまることだが、日本語ほど進化のスピードが速いものは他に見られないでのはないだろうか。

 

ウィキペディアによると、この「女子力」という表現は、2009年に新語・流行語大賞にノミネートされていたらしい(それさえも知らなかった私)。

女子力 - Wikipedia

 

私がこの表現を初めて目にしたのは、それから2年以上経過した頃のことではないだろうか。ただ、私には、この「女子力」なるものの定義が一体全体何であるのか未だに理解できない。

 

「女子力アップ」だの、「女子力アイテム」、「女子力診断」、「女子力が高い人」などと言う表現が巷に氾濫しているが、私にはあまりにも漠然としていてピンとこない。日本人の友人たちから聞いた話では、何らかの催しに差し入れをしたり、飲み会でおしぼりを誰よりも先に皆に配布するといった気配りのできる女性、守ってあげたくなるような女の子、常に男性を立てる女子、美容・ファッションに敏感な女性、「(男性に)愛される」女性、といった具合に様々な定義があるようだ。

 

上記のウィキペディアでも指摘されているが、どうやら人によって定義が異なる表現ということだ。また、デジタル大辞泉の定義を掲載したgoo辞書にも、明確な定義はないという説明が追記されている。それでもデジタル大辞泉が最初に提示している定義は、「女性が自らの生き方を向上させる力。また、女性が自分の存在を示す力」、そしてウィキペディアの方は、「輝いた生き方をしている女子(一部の男子)が持つ力であり、自らの生き方や自らの綺麗さやセンスの良さを目立たせて自身の存在を示す力」としている。するとフェミニズムの流れをくむ表現なのか。ただし、ウィキペディアのいう「輝いた生き方」という表現にも、私は疑問を感じてしまうが。。。

 

またある日本人の友人から聞いた話では、とある日本人の若い女性が外国人にこの「女子力」のことを英語で説明しようとして、「女子力」を「Girl Power」と英訳したところ、それを聞いた相手は、「日本でも女性の地位と意識向上の動きが高まっているのね!」と喜んだそうだ。

 

ケンブリッジ英英辞典による「Girl Power」の定義は、

the idea that women and girls should be confident, make decisions, and achieve things independently of men, or the social and political movement that is based on this idea

(女性と少女が自信を持ち、意志決定し、男性とは独立して物事を達成するべきという思想、またはその思想に基づいた社会・政治運動)

となっている。すると、デジタル大辞泉の第一の定義による「女子力」なら、「Girl Power」という英訳でもズレはほぼない。だが、「気配りに長けた女子」や「守ってあげたくなるような女の子」、「愛される女性」という意味では土俵がまったく違う。

 

「女子力」を説明(しようと)するときによく使われる表現のひとつに「女性らしさ」がある。しかし、この「女性らしさ」もある意味では危険な表現だと思う。「女性らしさ」の定義は、世代や文化、さらには各個人の信念によって異なってくるからだ。だから下手に使うと、自分が考えている「女性らしさ」を他人に押し付けるようで、私はできるだけ避けるようにしている。

 

 「女子力」の定義をググっていると、2016年12月26日~2017年1月24日の期間に朝日新聞デジタルが実施した「女子力」という言葉に関するフォーラムの結果記事をヒットした。回答数は計1621だったとのことで、「女子力」という言葉に対するイメージを問う質問では、「どちらかというとよくないイメージ」という回答と「よくないイメージ」という回答が計827票となっている。一方、「女子力は社会でどのような意味合いで使われていると感じるか」という質問では、「料理や掃除など、家事が得意」と「細やかな気配りができる」がそれぞれ566票と455票で、過半数を占めている。さらには、「出しゃばらず、男性を立てる」が115票も集めている。やはり、一般的な「女子力」の解釈は、ケンブリッジ英英辞典による「Girl Power」の定義とは程遠い。だが、その表現にネガティブなイメージを感じている人が多いという点は注目に値する。そして「みんなの意見」欄に掲載されている回答者の意見の中には、非常に共感するものもいくつかある。是非ご覧あれ。

www.asahi.com

 料理や掃除など、家事が得意」や「細やかな気配りができる」が「女子力」の条件なら、我が夫は「女子力」満タンだ。おまけに熟練のイクメンかつ私にとってはイケメンでもある(数年前に知った新語を連続使用してみた!)。そんな彼を私は「女子力の高い男性」とは考えていない。素晴らしい人物と思っているだけだ。だが、「理想的な男性」という表現は使わない。イライラさせられる欠点もいくつかある。その中には、生物学的に男性の特徴とされる行動パターンがかなりある。

 

彼と出会った頃、男性と女性の思考・行動パターンの違いを脳や生物学的な見解から解説する『Why Men Don't Listen and Women Can't Read Maps』という本を読んでいた。その中には自分たちに思い当たることが山ほどあり、よく大笑いしたものだ。だが、それが相手をよりよく理解する一助になったことも事実。この本は『話を聞かない男、地図が読めない女』という邦題でベストセラーになったこともあるそうだから、日本で読んだことがある人も結構いることであろう。

 

この本は、「男とはこうあるべき」、「女とはこんなもの」と男女をステレオタイプ化するものではない。そして、男女差別を正当化するものでは決してない。誰もが一度は経験したことのある男女の違いを、進化論も交えた生物学的な見解から分析解説することで、お互いの理解を深めることを目的にしたものだと私は受け止めている。日本語訳版は読んだことがないが、オリジナルの英語版は非常に興味深い内容で、しかもユーモア満載なので大いに楽しんだ。私のお勧め本の1冊である。

 

続く