けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

水の質④(注:他のメディアに限定公開していた記事に手を加えたもの)

今度は硬水と軟水それぞれのメリットとデメリットを調べてみた。軟水器メーカーの訪問販売員たちに教わったことに加え、以下のような情報を得た。

<硬水のメリット>
1. 便秘解消効果
これは硬水に多く含まれるマグネシウムの作用だそうだ。個人的に心当たりはないと思っていたが、その実よく考えてみると、日本に帰るたびに普段よりお通じが悪くなっていた。これは、日本では白米を食べる回数が増えるからだろうかと思っていたが、おかずは食物繊維が豊富なものが多いからバランスが取れているのではないか。ではやはり、マグネシウム含有量が低い軟水が原因なのだろうか。

2.動脈硬化の予防
これまたマグネシウムとカルシウムのおかげだそうだ。

3.ダイエットに効果がある
硬水内のミネラルが代謝を良くし、便秘を防ぐ作用があるからだそうだが、私個人のケースでは、大きな?マークがつき、眉間にしわが寄る。究極の硬水地域であるアスコットに住むようになってから、食事に気を付け、ちゃんと定期的な運動もしているというのに、メタボはまったく解消されない。「効果テキメン」というダイエット法を試しても、大した成果が出たことはない。あくまでも私個人の例だが(お酒の飲みすぎ?)……

4.洋風の煮込みに適している、紅茶が美味しくなる
ミネラル成分が多く含まれる硬水だと旨味成分のグルタミン酸イノシン酸が溶け出しにくく、マグネシウムやカルシウムがアミノ酸と結合してあくとなるのだそうだ。硬い肉を柔らかくする効果もあるらしい。(参考:http://water-delivery.net/06/0019.html

そして硬水でお米を炊くと、カルシウムが食物繊維を硬化して硬めに炊き上がるということだが、これは私も毎日のように体験している。日本メーカーの炊飯器を使っているが、水の量を多めにしないと必ず硬いごはんになる。そして日本で食べるお米はとてもふっくらしていて、本当に美味しいといつも感動する。やはり硬水と軟水の違いなのか。

紅茶の場合、硬水で淹れるとミネラル成分が渋み成分であるタンニンの抽出を抑制し、味と香りが弱まってコクが深まるそうだ。確かに、日本で紅茶を入れると薄い割には渋いと感じることもあった。だが緑茶は軟水で淹れる方が美味しいらしい。ただ、スコットも私もこの点はそれほど気にしないのでかまわない。

(参考:http://tea-for-life.net/knowledge/suidou.htm

<硬水のデメリット>
私たちがここアスコットで日々悩まされている皮膚や髪の乾燥、ライムスケールや石鹼アカとの闘いのほかにも、結石のリスクが高まるという健康上のデメリットがあげられる。特に腎臓の弱い人は、硬水に含まれるカルシウムをろ過しきれなくなって結石ができやすくなってしまうそうだ。

一方、軟水のメリットは、1.肌や髪にやさしい、2.泡立ちがよい、3.水を使う家電の寿命がのびる、4.浴室やキッチンの掃除が楽になる、など、美容と家計に嬉しいものばかりだ。さらに軟水は無味無臭であるため、素材を活かした繊細な味付けの日本料理に適しているという。軟水器が設置されたら、日々の食事に和風のメニューを増やしてみよう。また、軟水のミネラルバランスは人体のそれに近いため、赤ちゃんや小さな子供にも安心して与えることができるとのこと。有沙には赤ちゃんのときから水道水の湯冷ましや、ポット型浄水器ブリタに通した水を与えてきたが、たくましく育っているから大丈夫だろう。

軟水のデメリットとしては、ミネラル補給ができないので、便秘やむくみの解消、筋肉のけいれんや足がつるのを予防できないという点があげられているが、それはミネラルウォ-ターやサプリで補給すればいいだけのことではないか。

私はやはり、ケラスターゼの髪を一日も早く取り戻したい!22日水曜日の軟水器設置工事が待ち遠しくて仕方がなかった。

続く

水の質③(注:他のメディアに限定公開していた記事に手を加えたもの)

というわけで、軟水器3ヵ月間無料トライアル開始日は2月22日水曜日に決まった。

このメーカーはえらくご丁寧な会社で、女性販売員の訪問の翌日にコンファメーションのSMSメッセージが送られてきた。それだけにとどまらず、20日の月曜日には、我が家に設置工事に来ることになっている配管工の名前と連絡先が書かれたコンファメーションレターが郵送されてきた。

軟水器の設置を心待ちにしていたのは私だけではなかった。2年ほど前から、おそらくストレスが原因のアトピー症状が胸部に出るようになり、ひどいときには首まで真っ赤っかになって強烈なかゆみに悩まされていた夫は、軟水でシャワーを浴びれば症状が緩和されるかもと期待している。実際、日本滞在中は赤みもかゆみもほとんど出なかった。

軟水器が我が家にやって来るまでの期間、マニアックな一面を持つ私は、硬水と軟水についていろいろ調べ始めた。

そもそも、水の硬度というものは、1Lあたりのカルシウムやマグネシウムの含有量で決まり、カルシウム由来の硬度分とマグネシウム由来の硬度分の総和である全硬度の値によって定義される。世界保健機構(WHO)の基準では、全硬度が120mg/L未満を軟水とし、それ以上が硬水とされている。より細かいことを言うと、全硬度60mg/L未満が完全な軟水で、60mg/L~120mg/L未満は中程度の硬水、120mg/L~180mg/L未満が硬水、そして180mg/Lは非常な硬水ということらしい。

英国は60%の地域が硬水だそうだ。英国の各水道水サプライヤーのウェブサイトでは、自分たちの地域の全硬度をチェックするサービスが用意されている。そこで私は我が家のある地域のサプライヤー、Affinity Waterのサイトで調べてみることにした。チェックサービスのページにある検索エンジンに我が家の郵便番号を入力すると、1Lあたりのカルシウム含有量と全硬度が表示された。我が家の水道水の全硬度はなんと、283mg/L‼ こ、これは、究極の硬水ではないか!

では、実家のある大阪府和泉市の水道水はどうだろうか。私がまだ実家にいたころは、和泉市といえば「大阪泉南のガラが悪い片田舎!」というイメージが強かったが、泉北高速鉄道の終点が光明池から和泉中央にのび、大規模ショッピングモールのららぽーと和泉もできて住宅開発が急激に進み、今では大阪府で2番目に人気のある市(1位は箕面市)だそうだ。和泉市を去って23年近くになる浦島太郎状態の私にとって、これはびっくり仰天のニュースだった。

ただ、和泉市の水道水といっても、地域によってその水源が異なる。おそらく私の実家の水道水の水源は、光明池にある和田浄水場であろう。小学生のときにこの浄水場へ社会見学に行ったことがあったと思う。そこで和泉市役所のホームページに掲載されている水道水の水質検査結果で、和田浄水場の資料(平成29年1月のデータ)をチェックしてみた。「全硬度」という項目は見当たらなかったが、「カルシム、マグネシウム等」という項目があった。水道水質基準では全硬度は300mg/L以下でなければならないと定められている。このカルシム、マグネシウム等の「基準値」欄を見ると「300以下」と記載されているから、これを全硬度の項目とみなしていいだろう。ここに示されている数値は66mg/Lであった。アスコットの我が家の水道水と比べると、バリバリの軟水だ。

では、民泊先だった東京都大田区はどうか。東京都水道局のホームページで大田区の水道水質検査結果を見てみることにした。大田区内でも地域によって水源が違う。私たちの民泊先は大森東にあったので、大森本町のデータをチェックした。項目は和泉市の検査結果とほぼ同じように分類されていた。おそらく日本で統一されているものなのだろう。ホームページで閲覧できる最新データは平成28年3月のもので、これによると大森本町の水道水の全硬度は平均81.5mg/Lということだった。これは大阪の実家の水道水よりも高い硬度だが、それでも英国の我が家の水道水にくらべると断然軟らかい。

夫の故郷であるスコットランドの水道水は、素晴らしい軟水であることで名高い。そこで、夫が生まれ育ったインバネスの全硬度をチェックしてみた。Scottish Waterのサイトからダウンロードした資料によると、インバネスの水道水の全硬度はなんと、29.7mg/L!まるで清められた神水ではないか!ネス湖ネッシーがカルシウムやマグネシウムを吸収してくれているのかと思ったが、夫によるとインバネスの水源はネス湖ではないそうだ。どこが水源であるにしろ、すごい軟水だ。

では、私が12年間暮らしたパリはどうか。欧州はほとんどの国が硬水だという。フランスも例外ではない。確かに電気ケトルの底やアイロンの蒸気が出る穴にライムスケールが溜まっているのが気になることもあったが、シャンプーの洗い上がりの質感で悩んだ記憶はない。パリ市役所の水質ページをチェックすると、「全硬度」にあたる項目のDureté (TH : Titre Hydrotimétrique)はフランス固有の単位で表示されており、28.8 °fとされている。この°fは、華氏(ファーレンハイト)のシンボルではなく、degré françaisというフランス独自の単位の記号である。一般的な全硬度の単位への換算法がわからないので、カルシムとマグネシウムの1Lあたりの含有量を見てみると、それぞれ90mg/Lと6mg/Lということだった。これでは東京都大田区大森本町の全硬度とあまり変わらないのでは?フランス独自の単位による硬度の定義の説明を見ると、28.8 °fというのは「どちらかというと硬水」のカテゴリーに入る。

 

続く

水の質②(注:他のメディアに限定公開していた記事に手を加えたもの)

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*写真No1:訪問実演のときに写真を撮らなかったので、水処理機器の総合メーカー(株)トーケミのホームページから拝借。右が水道水で左が軟水器を通した水。ただしこれは日本の水道水なので全硬度は我が家の水道水よりずっと低い。だから我が家での実演では、泡立ちの差はこの写真より著しかった。

*写真No2:我が家の温水器のパイプにこびりついているライムスケールの塊



訪問販売員の説明に納得したので、まずはこのメーカーの軟水器の実演のアポを取ることに合意した。こうして、1週間後に別の販売員が実演に来てくれることになった。

アポの当日、やって来たのはこのメーカーに勤めて16年という女性。ヘビースモーカーなのか、ものすごいダミ声の持ち主で、50代前半ぐらいに見えた(まだ50歳になっていないのなら失礼!)。スリムな長身に真っ赤なボディコンドレスを纏い、足元は10cmぐらいありそうなスティレットヒールの黒のパンプスという出で立ちだった。

ナイトクラブにでも行くかのよう装束と軟水器の実演というのはかなりミスマッチだと思ったが、実演は非常に興味深かった。最初に行われたのは、キッチンの蛇口から出した水と、蛇口の水を軟水器に通したもので、同じ石鹸を使って手を洗うという実験だった。硬水である蛇口の水ではいつものように表面の皮膚が突っ張る感じがしたが、軟水器を通した水ではヌメヌメ感があり、手を拭いたあとの肌はしっとりしていた。これは、硬水に多く含まれるカルシウムやマグネシウムが、皮膚が自然に生成する保護脂質を洗い流してしまうからだそうだ。硬水で髪を洗うとパサパサ、ゴワゴワになるのも同じ理由。

次は、硬水を入れた試験管と軟水の試験管に、同じ液体洗剤をまったく同量入れてよく振るというもの。すると、軟水の方が断然泡立ちがいい。そしてしばらく置くと、軟水は泡の下の水がほぼ透明なのに対して、硬水では泡がほとんど消えてなくなり、水は大量の石鹸カスで白く濁っていた。だからこちらでは、シャワーやバスルームは使用後必ず水ですすいでいても、頻繁にクレンザーで掃除しないと、ライムスケールだけでなく、(酸化して?)赤くなった石鹸カスがそこら中に出現する。放っておくとカビや雑菌の温床になって不衛生だ。

また、この泡立ちの違いは、私の食器洗い用洗剤の消費量を省みると、なるほど!とくる。我が家ではほとんどの食器を食器洗い機(欧米のモデルは日本のものよりずっと容量が大きくて便利)で洗っているが、それでもやはりデリケートな食器類や調理器具などは手洗いしている。そのとき私は、しっかりした泡立ちを求めて大量の洗剤をスポンジにつけがちだ。しかも一度の食器洗いにそれを数回繰り返している。だから我が家ではビッグサイズの食器洗い用洗剤をストックしており、そのターンオーバーは実に早い。

ダミ声の女性販売員の話では、軟水器を使えば洗剤やクレンザーの消費量がぐっと減り、またスキンケアやヘアケア製品に大金をかける必要性も低くなるうえ、洗濯機や食器洗い機、アイロン、コーヒーメーカーなどの水を使う家電の寿命がのびるため、中長期的に見ればかなりの節約なる。実に理にかなった主張だ。そのうえ、硬水を使っていたために蛇口やシャワーヘッド、水道管のつなぎ目などにこびりついてしまったライムスケールの塊も、軟水を使い続けているうちに自然に落ちていくそうだ。

彼女自身、このメーカーに入社して以来ずっとここの軟水器を使っているが、今でもその効果に心から満足しているという。困ったことや不満に思ったことはなかったか、つまり何らかのデメリットはあるかと夫が問いただすと、彼女は訪問販売員にありがちなポジティブ面だけを並び連ねた即答ではなく、しばらく真剣に考えてから、「そのような例は本当に思い浮かびませんね」と答えた。

実演を見て軟水器のメリットにすっかり納得した夫と私だったが、最大の懸念であるお値段の方は…… やはり、衝動買いできるような価格帯の製品ではない。だが、軟水を使うことで享受できる恩恵は、計り知れないとまではいわずとも、かなり大きいということは確かだ。ダミ声の女性販売員は、分割払いなどの支払いオプションがいくつかあることを説明してくれたが、まずは3ヵ月間の無料トライアルでその効果を実際に体験してみてから決めればいいといった。その期間中は、軟水器に入れるブロック状の塩も無料で提供してくれるらしい。イオン交換樹脂を利用したこの軟水器に必要なブロック状の塩(樹脂が捉えたマグネシウムやカルシウムを塩水がナトリウムイオンに交換することで軟水化するのだそうだ)は、このメーカーのストア以外にもガーデンセンターやDIYショップで買え、2本入りパックの相場はだいたい6ポンド(約850円)ぐらいだそうだ。

私は、里帰り中に堪能していた、まるであのケラスターゼを使っているかのような感動的な髪の洗い上がりを再び!という切望でモチベーションが全開になっていた。

続く

水の質①(注:他のメディアに限定公開していた記事に手を加えたもの)

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*写真はライムスケールがこびり付いた我が家の電気ケトル


実は、昨日2月22日水曜日から、硬水軟化装置(軟水器)の3ヵ月間無料トライアルをしている。昨日正午にこの軟水器メーカーの配管工がやって来て、約2時間かけて我が家の水道の元栓に軟水器を取り付けてくれた。軟水器そのものは比較的シンプルな構造だが、それを設置するには水道管をあちこちいじらないといけない。その工事に2時間ちかくかかったのだ。だが、いったん設置すればあとはごく簡単。3~4週間に一度ぐらいのペースで、軟水器の中に入れるブロック状の塩を補給するだけ。電動ではなく、水流で稼働するタイプなので、電気代がかさむ心配もない。


アスコットの今の家(貸家)に移り住んだのは8年前のこと。それがなぜ、今になって初めて軟水器を使ってみる気になったのか。

 

事の始まりは今月のあたま。この軟水器メーカーの訪問販売員が我が家のドアベルを鳴らしたことだった。30代後半とおぼしきアジア系の物腰の柔らかい男性で、「押し売り」のイメージとは程遠い人物だった。ちなみに、英国でいう「アジア系」とは、日本人や中国、韓国人などのいわゆる東洋人ではなく、インド、パキスタンバングラデシュ系の人々のことを指す。


普段なら訪問販売はすぐに断っている(あくまでも礼儀正しく)が、この人物の印象が良かったことと(結構人情深い私)、硬水と軟水の違いに多少興味があったので、話を聞いてみることにした。

 

英国の水道水は大半が硬水であることは知っていたが(ちなみにスコットランドは軟水)、「紅茶は硬水で淹れた方が美味しい」だとか、硬水は浴室の鏡やガラス、シャワーヘッドや蛇口、キッチンの流し台や電気ケトルやアイロンに堆積する石灰鱗(ライムスケール)の原因だという程度の知識しかなかった。それがこの販売員の説明では、硬水は皮膚の乾燥や髪のパサつきの原因でもあり、その対策やライムスケールの除去のために多くの人が気が付かないうちにかなりの出費をしているという。しかも、我が家があるアスコット周辺は、水道水の硬度が特に高い地域だそうだ。

 

確かに、シャワールームや浴室、キッチン流し台の掃除には、ライムスケール除去用の少し高めのクレンザーを使っている。しかも、かなりゴシゴシとこすらなければきれいにならない。そして食器洗い機や洗濯機には、定期的に専用の塩を投入しなければ故障につながる恐れもある。電気ケトルも確かに底や注ぎ口にまでライムスケールがかなり溜まっているし、アイロンもスチームと一緒に灰色のライムスケールが溶け出して、アイロンがけしていた服を汚してしまうという事態が何度かあった。


硬水が皮膚や髪の乾燥の原因であることは、そういえばどこかで聞いたような気がする。数年前、ウィンザーのネイルサロンで初めてケアをしてもらったとき、ベトナム系のネイリストの女性に、「あなたのキューティクルはかなり乾燥してますね。イングランドの水はよくないから、キューティクルオイルを頻繁に使ったほうがいいですよ」と言われたことがあった。実際、手を洗うごとにハンドクリームをしっかり塗りこまないと、手の表面がカサカサしたり突っ張ったりする。

 

髪に関しても、イギリスに移住してからというもの、結構なお値段のコンディショナーを使ってもシャンプー後の洗い上がりの質感が満足のいくものではないのは事実。髪を洗った後は(もちろんコンディショナーも毎回使っている)、ヘアセラムやモロッコで買ったアルガンオイルをしっかり塗らないとヘアブラシがすっと通らない。そしてドライヤーで乾かしたあとの髪は、ゴワついたり縮れたりして、なかなかきれいにまとまらない。だからシャンプーしてキレイな髪になったはずの日も、髪をねじり上げて後頭部にバレッタで留めるというパターンが多かった。

 

ヘアサロンで買えるロレアル系の高級ヘアケア商品ブランド「ケラスターゼ」のシャンプーとコンディショナーをしばらく使っていた時期があったが、これはさすがにヘアケアのホームエステというコンセプトを売り物にしているブランドだけあって、素晴らしい艶とコシの感動的な仕上がりだった。ただやはりかなりのお値段の代物なので、ネット販売などの割安ルートで入手していたが、結局1年半ぐらいで断念した。以来さまざまな商品を試したが、「ケラスターゼ」に肩を並べるものはなかった。


しかし、この販売員の説明を玄関先で聞くまで、この髪の悩みを水道水の質と結び付けたことはなかった。歳をとったせいで髪に栄養分が行き渡りにくくなったためだとか、出産で体質が変わってしまったから(とはいっても、出産前から抱えていた悩み)だとか思い込んでいた。

 

だがよく考えてみれば、1月に日本に里帰りしていた期間は、シャンプー後の髪の質感はあのケラスターゼの仕上がりに近いものだった。使っていたシャンプーとコンディショナーの質が良いからかと思っていたが、実家で使っていたのはごくありきたりの商品だっただろうし、東京の民泊先に置いてあったのは某コンビニの自社ブランド製品だった。ああ、なるほど!日本の水道水は軟水だからだったのか!

 

続く

WhiskyとWhiskey (注:他のメディアに限定公開していた記事に手を加えたもの)

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ウイスキーの英語スペルには、WhiskyとWhiskeyの2種類がある。日本語にも「ウヰスキー」や「ウイスキー」などの書き方があるが、前者は旧字であり、現在ではブランド名/商品名に用いられているだけであって、酒税法国税省では「ウイスキー」の表記を使用している。では、英語のスペルの違いはどこから来たものなのだろうか。

 

ウイスキーの話題になるとどうしても触れたくなるのが、「スコッチウイスキー」の定義。まず、スコッチウィスキー(または単にスコッチ)と呼ばれるものは、スコットランド産のモルトウィスキーまたはグレーンウィスキーでなければならない。これは以前から知っていた。シングルモルトウィスキーのことをスコッチと呼ぶと思っている人もいるようだが、これは違う。ブレンドでもスコットランド産のウィスキーならスコッチ。シングルモルトでもスコットランドで製造されたものでなければ、スコッチとは呼べない。

しかも、スコッチと呼ばれることを許されるウィスキーは、2009年スコッチウィスキー規則 (The Scotch Whisky Regulations 2009) という法律が定める基準を満たしているものだけ。

その基準とは(面倒臭いのでウィキペディアの定義をコピペさせていただいた):

スコットランドで製造されたウィスキーであり、

(a)スコットランドの蒸留所にて、水および発芽させた大麦(これに他の穀物の全粒のみ加えることができる。)から蒸留されたものであって、
(i)当該蒸留所にて処理されマッシュとされ、
(ii)当該蒸留所にて内生酵素のみによって発酵可能な基質に転換され、かつ、
(iii)当該蒸留所にて酵母の添加のみにより発酵されたものであり、
(b)蒸留液がその製造において用いられた原料およびその製造の方法に由来する香りおよび味を有するよう、94.8パーセント未満の分量のアルコール強度に蒸留されており、
(c)700リットル以下の容量のオーク樽においてのみ熟成されており、
(d)スコットランドにおいてのみ熟成されており、
(e)3年以上の期間において熟成されており、
(f)物品税倉庫又は許可された場所においてのみ熟成されており、
(g)その製造および熟成において用いられた原料ならびにその製造および熟成の方法に由来する色、香りおよび味を保持しており、
(h)一切の物質が添加されておらず、または
(i)水
(ii)無味カラメル着色料、もしくは
(iii)水および無味カラメル着色料
を除く一切の物質が添加されておらず、かつ、
(i)最低でも40%の分量のアルコール強度を有するもの

なのだ。

そして本題の WhiskyとWhiskeyのスペルの違いの由来はというと、基本的にアイルランド産と米国産のウィスキーはWhiskeyという具合にKとYの間にEが入り、スコットランドやカナダ、日本を含めた世界の他の地域で製造されたものはWhiskyと綴られるらしい。その背景にあったストーリーとは差別化である。

1870年代にスコットランドで製造されていたウィスキーは、Coffey Still(カフェ式連続式蒸留機)で蒸留された非常に質の低いものであったそうだ。そこで、アイルランドが米国輸出向けのウィスキーをこの質の劣るスコットランド産のものと差別化する為にKとYの間にEを入れたWhiskeyという綴りを使うようになったのがきっかけで、アイルランド産ウィスキーの方が広く普及していた米国では、現在でもこの綴りを好むということらしい(参考: Whisky or Whiskey - Master of Malt)。これは知らなかった。

それでも、George Dickel(テネシーウィスキーのメーカー)やMaker's Mark(ケンタッキー・ストレート・バーボン)などのスコットランドにルーツを持つ米国の蒸留所は、Whiskyというスペリングを使っているとのこと。マニアックな私は早速この2つの蒸留所のホームページでファクトチェックをしてみたが、確かにそうなっている。

うーむ。面白い。奥が深い。ただの酒好きでそのような点に今まで注意を払っていなかったので、大変勉強になった。🥃 Slàinte!(スコットランドゲール語で「乾杯!」にあたる表現。「スランチェ」と発音)


ちなみに余談ではあるが、ニッカのホームページによると、現在ではスコットランドでもほぼ見かけられなくなったこのカフェ式連続式蒸留機は、高品質グレーンウィスキーを生み出すそうで、ニッカの宮城峡蒸留所では今でも使っているとのこと。
竹鶴さんと、朝日麦酒の社長だった山本為三郎さんの本物の酒づくりにかけた情熱が果たした日本上陸だったそうだ。

 

偉人たちのレガシーに乾杯。

日本語進化論③

ジャン=クロード・ヴァン・ダムは、ベルギーの首都ブリュッセル出身の格闘家・映画スター。彼の母国語はフランス語なのだが、ウィキペディアの解説によると、1982年に英語もろくに話せないまま、俳優を目指して米国ロサンゼルスに移住したという。そして30年を超える米国生活の末、彼は英語交じりの滑稽なフランス語しか話せなくなってしまった。フランスのテレビのトークショーなどに出演すると、フランス語のみの発言ができず、必ず英語の単語や表現が口から飛び出す。ある程度はやらせなのかもしれないが、そんな彼の姿はフランスでお笑いのネタとなることが非常に多い。私自身もフランスにいた頃は、彼のインタビューに大笑いしていたものだ。

 

しかし、よく考えてみると、現代の日本人の日本語は、ジャン=クロード・ヴァン・ダムのフランス語よりも数倍滑稽かもしれない。果たして今の日本人は、カタカナ語を一切使わずに発言したり、文章を書くことができるのだろうか。外国の地名、外国人の名前などの固有名詞、そして松田源治が主張していたように従来日本になかった外来品や概念などの場合は仕方がないが、れっきとした日本語の表現があるものは日本語を貫く。それは今の日本社会でどこまで実現可能だろうか。近頃の日本の雑誌名などは、ほとんどがカタカナ語か外国語をそのままローマ字でつづったものだ。特にファッション・ライフスタイル系(「流行服飾・生活様式系」と書くべきか)のものはその傾向が断然主流であるように見える。ファクトチェック(事実確認)のためにmagazine-data.comで女性向けファッション雑誌一覧をチェック(確認)してみたが、やはり私の推測は正しかった(http://www.magazine-data.com/women-menu/fashion.html)。

 

だが、50代~の女性が読者層の雑誌には、日本語のみの名前を掲げているものが結構ある。『婦人画報』(現存する日本最古の婦人誌-創刊1905年/明治38年!!!)や『婦人公論』(創刊1916年/大正5年)、『装苑』(創刊1936年/昭和11年)、『家庭画報』(創刊1958年/昭和33年)などの大御所だけでなく、『おとなのおしゃれ手帳』(創刊2012年)といった比較的最近にできた雑誌もある。なかなか潔くて清々しいではないか。

 

『婦人画報』や『婦人公論』など100年以上前に創刊された婦人誌が、カタカナ語の雑誌名が氾濫している現在でも、当時と同じ名前を掲げたままバリバリの現役で健闘しているというのは脱帽ものだ。では、100年前の女性誌の記事にはどれくらいカタカナ語が使われていたのだろうか。気になったのでまたググってみる(検索してみる)と、『百年前新聞』というサイトに出くわした(http://100nenmae-shimbun.jp/ad/entry-80.html)。2015年の7月に投稿された記事だが、大正時代の女性雑誌6誌の広告が掲載されている。『婦人世界』や『婦女界』、『婦人之友』、『家庭雑誌』、『婦人書報』、『淑女書報』といった具合に、どれも純粋な日本語の名前を掲げたものばかりだ。そしてそれぞれの記事一覧を見ると、カタカタ語はほとんどない。『婦人世界』の「ヒステリー患者の心理」という記事と、『家庭雑誌』の「日本人に嫁した外国婦人の家庭談」という記事の寄稿者名(山崎オーラと泉谷エルザ)、そして『婦人書報』と『淑女書報』に「外国婦人のバザー」や「サロメダンスと表情ダンス」、「各国大使、公使夫人のバザア」というのがある程度だ。そしてどれも従来日本に存在しなかった物事や外国人の固有名詞である。

 

そもそも、正真正銘の日本語表現が存在する物事に、わざわざ外来語を使った造語を無理やりに造る必要などあるのだろうか。「ワーママ」は「働く母」や「働くお母さん」で十分なはず。短縮形で「働母(どうぼ?)」とすると、中国語っぽくなってしまうのでやめておこう。「リーマム」の語源の一部である「サラリーマン」は、大正時代頃から使われ始めたということですっかり国語として定着しているが、あえて純粋な日本語に直すなら「月給取り」となる。だから「リーマム」は、「月給取り母さん」でいいではないか。そんなことを考えているうちに、カタカナ語が氾濫している現代の雑誌記事を純粋な日本語に書き換える試みに挑戦してみたくなった。そこで、昭和初期の文部大臣・松田源治がカタカナ語のご法度を出したと想定し、雑誌『Very』10月号の広告を純粋な日本語に訂正してみることにした。よほどの暇人かと思われるであろうが、決してそういうわけではない。

 

まず、雑誌名から取り組まなければならない。なぜ「Very」という英語の形容詞・副詞が名前に選ばれたのか、どういう意味合いで使われているのかよくわからないが、この英単語の一般的な日本語訳は「とても」「まさに」「大変」「非常に」「極めて」などである。どれも雑誌名としてはしっくりこない。特に「大変」は負の印象を与えかねない。そこで、これも今ひとつかもしれないが、「すごい」とすることにした。

下の画像が10月号広告の原版である。

 

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これを私なりに「日本語訳」すると。。。

 

すごい

次号

すごい10月号は9月7日(木)発売です

定価720円(税込み)*内容は一部変更になることがあります。

 

<大特集>

気が付けば、紺の次ぐらいに頼りになってる

枯草色が、私たちの日常の基本色に躍り出た!

見極め線は、主婦にとって一石二鳥なおしゃれかどうか

お母さんに優しい流行だけ乗っかろう!

毎日着られなかったら意味がない!

雑に扱える“一流外套”が欲しい

靴への価値観って、女の個性がいちばんでる

この秋の靴のお悩み、10問10答

  • 上から抱っこひも大丈夫!な厳選上着目録
  • コンバース(固有名詞なのでそのまま)と高いかかとの靴(無理しすぎかも、両方に合う服が欲しい
  • 液状口紅の実力、大調査 
  • 単身育児(「ワンオペ育児」はググりまくってやっとその意味を理解することができた)にまつわるすごい的考察
  • 離婚約のすすめ
  • そのお弁当、詰め方を変えれば見違える!
  • 妻が、お母さんが乳がんになりました・・・・

 他にも読みどころ満載・・・

 

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なかなかの出来ではないだろうか。これは松田源治に文部大臣賞を授けてもらえるほどの傑作かも、などと独り善がりの自己満足に浸る私であった。

日本語進化論②

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「リーマム」とは、一体全体何を指す言葉なのか。形容詞なのか、名詞あるいはブランド名などの固有名詞なのか。その意味を解読すべく、まずどのような形で使われているかに注目すると、例えば雑誌『Very』3月号掲載の「復職&入園シミュレーション」と題された特集記事では、「証言つきで紹介 私のリーマム人生これで変わりました!」や「リーマム生活に本当に必要なもの」といった具合である。そしてこのページには、「復職ママの5日間を支えるヒト・モノ・コト辞典」としてお役立ちアイテムがAからZの順にリストアップされている。「復職」という言葉から、会社勤めに関連のある表現なのだろうとは想像がついた。しかしこの時点の私は、つい最近まで日本の経済誌などで(雑誌『Very』以前は『日経ビジネス』や『東洋経済』の電子版を定期購読していた私)よく見かけていた「リーマンショック」という表現とのつながりを連想していた。リーマンショックのとばっちりで夫が解雇された後、専業主婦生活を捨てて復職に成功した女性たちのことなのだろうか。だが、リーマンショックの被害者たちは、こんなにオシャレにバンバン気合いを入れる余裕があるのだろうか。他にそれらしき定義を思いつくことができなかった私は、そんなことを真剣に考えてしまった。

 

実は、「リーマム」の定義は4月号の「この春、働くベーシックをバージョンアップ!宣言」という特集記事で説明されていた。この特集記事の最初のページの右下に丸囲みで「What’sリーマムとは?」という見出し(英語と日本語の組み合わせ方が間違っているとツッコミを入れたくなる)の下に、「週5日会社通勤するサラリーマン・マザーを “リーマム” と命名」と書かれている。だが、それを発見したのは、この投稿をしたためていたつい先ほどのことであった。ファクトチェックのためにバックナンバーで「リーマム」が使われているページを探していたときのことである。何ゆえ今まで気がつかなかったのかというと、たいていの場合は写真をチラ見するだけで、自分が興味のある内容のページしかじっくり読んでいなかったからだ。そういうわけで、私は雑誌『Very』電子版の8月号を受信するまで、この「リーマム」の意味を理解していない状態であった。8月号から連載が始まった相鉄線とのコラボ記事のタイトル「もしも、リーマムのわたしが相鉄線沿線に住んだら・・・・・・・未来予想図」を見て、ついにググることを決意したのだった。

 

関西出身で現在は外国住まいの私にとって、神奈川県を走る相鉄線沿線での生活シミュレーションなどまったく無縁・無用な話題だが、これほどまでに激用されているこの「リーマム」という表現の意味を知らないままでいるわけにはいかないと感じた。そこで「リーマム意味」というキーワードでググったところ、最初に出てきたのは、「仮想敵国VERY」というカテゴリで楽天ブログに投稿されている雑誌『Very』バッシングのような記事だった。内容はこの雑誌に対してかなり攻撃的だが、「リーマム」というVery用語は「週5日勤務するサラリーマン・マザーのことで、戦場のようなバタバタな朝を経て出社するも、オフィスでは余裕顔で仕事をこなす、仕事と育児・家事を両立させ、バイタリティあふれるキラキラ輝くママたちのことらしいぜ」という説明が導入部にあった。これを読んだとき、私は「あ~っっっっっ!!!!」と思わず絶叫してしまった。「リーマム」とは、大正時代から使われ始めたとされている「サラリーマン」という和製英語http://gogen-allguide.com/sa/salaried_man.html)と、「お母さん」を意味する英語の「Mumマム)」の造語だったのか!つまり、純粋な日本語で言う「働くお母さん」のことなのだ。これはあまりにも意外すぎて、拍子抜けしてしまった。

 

「働くお母さん」を指す現代日本語には、「ワーママ」というのもあるらしい。これは、Weblio実用日本語表現辞典にも定義が載っている (ワーママとは - 日本語表現辞典 Weblio辞書)。英語の「Working mother(ワーキングマザー)」から派生した「ワーキングママ」の略式ということだが、この表現を初めて見たとき、私は冗談抜きで、「わがまま」をどこかの地方の訛りで発音したものだと思った。それにしても、現代の日本社会は一体どうして、これほどまでに外国語から派生したカタカナ語を実用日本語として激用するのだろうか。果たしてこの現象は、日本語の「進化」と受け止めるべきものなのだろうか。松田源治が健在であったら、それこそ「何事ぢゃあ!」と喝を入れてくるに違いない。

 

そんなことを考える私はやはり、重度の浦島太郎症候群にかかっているのだろうか。

 

続く