けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

日本語進化論③

ジャン=クロード・ヴァン・ダムは、ベルギーの首都ブリュッセル出身の格闘家・映画スター。彼の母国語はフランス語なのだが、ウィキペディアの解説によると、1982年に英語もろくに話せないまま、俳優を目指して米国ロサンゼルスに移住したという。そして30年を超える米国生活の末、彼は英語交じりの滑稽なフランス語しか話せなくなってしまった。フランスのテレビのトークショーなどに出演すると、フランス語のみの発言ができず、必ず英語の単語や表現が口から飛び出す。ある程度はやらせなのかもしれないが、そんな彼の姿はフランスでお笑いのネタとなることが非常に多い。私自身もフランスにいた頃は、彼のインタビューに大笑いしていたものだ。

 

しかし、よく考えてみると、現代の日本人の日本語は、ジャン=クロード・ヴァン・ダムのフランス語よりも数倍滑稽かもしれない。果たして今の日本人は、カタカナ語を一切使わずに発言したり、文章を書くことができるのだろうか。外国の地名、外国人の名前などの固有名詞、そして松田源治が主張していたように従来日本になかった外来品や概念などの場合は仕方がないが、れっきとした日本語の表現があるものは日本語を貫く。それは今の日本社会でどこまで実現可能だろうか。近頃の日本の雑誌名などは、ほとんどがカタカナ語か外国語をそのままローマ字でつづったものだ。特にファッション・ライフスタイル系(「流行服飾・生活様式系」と書くべきか)のものはその傾向が断然主流であるように見える。ファクトチェック(事実確認)のためにmagazine-data.comで女性向けファッション雑誌一覧をチェック(確認)してみたが、やはり私の推測は正しかった(http://www.magazine-data.com/women-menu/fashion.html)。

 

だが、50代~の女性が読者層の雑誌には、日本語のみの名前を掲げているものが結構ある。『婦人画報』(現存する日本最古の婦人誌-創刊1905年/明治38年!!!)や『婦人公論』(創刊1916年/大正5年)、『装苑』(創刊1936年/昭和11年)、『家庭画報』(創刊1958年/昭和33年)などの大御所だけでなく、『おとなのおしゃれ手帳』(創刊2012年)といった比較的最近にできた雑誌もある。なかなか潔くて清々しいではないか。

 

『婦人画報』や『婦人公論』など100年以上前に創刊された婦人誌が、カタカナ語の雑誌名が氾濫している現在でも、当時と同じ名前を掲げたままバリバリの現役で健闘しているというのは脱帽ものだ。では、100年前の女性誌の記事にはどれくらいカタカナ語が使われていたのだろうか。気になったのでまたググってみる(検索してみる)と、『百年前新聞』というサイトに出くわした(http://100nenmae-shimbun.jp/ad/entry-80.html)。2015年の7月に投稿された記事だが、大正時代の女性雑誌6誌の広告が掲載されている。『婦人世界』や『婦女界』、『婦人之友』、『家庭雑誌』、『婦人書報』、『淑女書報』といった具合に、どれも純粋な日本語の名前を掲げたものばかりだ。そしてそれぞれの記事一覧を見ると、カタカタ語はほとんどない。『婦人世界』の「ヒステリー患者の心理」という記事と、『家庭雑誌』の「日本人に嫁した外国婦人の家庭談」という記事の寄稿者名(山崎オーラと泉谷エルザ)、そして『婦人書報』と『淑女書報』に「外国婦人のバザー」や「サロメダンスと表情ダンス」、「各国大使、公使夫人のバザア」というのがある程度だ。そしてどれも従来日本に存在しなかった物事や外国人の固有名詞である。

 

そもそも、正真正銘の日本語表現が存在する物事に、わざわざ外来語を使った造語を無理やりに造る必要などあるのだろうか。「ワーママ」は「働く母」や「働くお母さん」で十分なはず。短縮形で「働母(どうぼ?)」とすると、中国語っぽくなってしまうのでやめておこう。「リーマム」の語源の一部である「サラリーマン」は、大正時代頃から使われ始めたということですっかり国語として定着しているが、あえて純粋な日本語に直すなら「月給取り」となる。だから「リーマム」は、「月給取り母さん」でいいではないか。そんなことを考えているうちに、カタカナ語が氾濫している現代の雑誌記事を純粋な日本語に書き換える試みに挑戦してみたくなった。そこで、昭和初期の文部大臣・松田源治がカタカナ語のご法度を出したと想定し、雑誌『Very』10月号の広告を純粋な日本語に訂正してみることにした。よほどの暇人かと思われるであろうが、決してそういうわけではない。

 

まず、雑誌名から取り組まなければならない。なぜ「Very」という英語の形容詞・副詞が名前に選ばれたのか、どういう意味合いで使われているのかよくわからないが、この英単語の一般的な日本語訳は「とても」「まさに」「大変」「非常に」「極めて」などである。どれも雑誌名としてはしっくりこない。特に「大変」は負の印象を与えかねない。そこで、これも今ひとつかもしれないが、「すごい」とすることにした。

下の画像が10月号広告の原版である。

 

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これを私なりに「日本語訳」すると。。。

 

すごい

次号

すごい10月号は9月7日(木)発売です

定価720円(税込み)*内容は一部変更になることがあります。

 

<大特集>

気が付けば、紺の次ぐらいに頼りになってる

枯草色が、私たちの日常の基本色に躍り出た!

見極め線は、主婦にとって一石二鳥なおしゃれかどうか

お母さんに優しい流行だけ乗っかろう!

毎日着られなかったら意味がない!

雑に扱える“一流外套”が欲しい

靴への価値観って、女の個性がいちばんでる

この秋の靴のお悩み、10問10答

  • 上から抱っこひも大丈夫!な厳選上着目録
  • コンバース(固有名詞なのでそのまま)と高いかかとの靴(無理しすぎかも、両方に合う服が欲しい
  • 液状口紅の実力、大調査 
  • 単身育児(「ワンオペ育児」はググりまくってやっとその意味を理解することができた)にまつわるすごい的考察
  • 離婚約のすすめ
  • そのお弁当、詰め方を変えれば見違える!
  • 妻が、お母さんが乳がんになりました・・・・

 他にも読みどころ満載・・・

 

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なかなかの出来ではないだろうか。これは松田源治に文部大臣賞を授けてもらえるほどの傑作かも、などと独り善がりの自己満足に浸る私であった。