けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

水の質③(注:他のメディアに限定公開していた記事に手を加えたもの)

というわけで、軟水器3ヵ月間無料トライアル開始日は2月22日水曜日に決まった。

このメーカーはえらくご丁寧な会社で、女性販売員の訪問の翌日にコンファメーションのSMSメッセージが送られてきた。それだけにとどまらず、20日の月曜日には、我が家に設置工事に来ることになっている配管工の名前と連絡先が書かれたコンファメーションレターが郵送されてきた。

軟水器の設置を心待ちにしていたのは私だけではなかった。2年ほど前から、おそらくストレスが原因のアトピー症状が胸部に出るようになり、ひどいときには首まで真っ赤っかになって強烈なかゆみに悩まされていた夫は、軟水でシャワーを浴びれば症状が緩和されるかもと期待している。実際、日本滞在中は赤みもかゆみもほとんど出なかった。

軟水器が我が家にやって来るまでの期間、マニアックな一面を持つ私は、硬水と軟水についていろいろ調べ始めた。

そもそも、水の硬度というものは、1Lあたりのカルシウムやマグネシウムの含有量で決まり、カルシウム由来の硬度分とマグネシウム由来の硬度分の総和である全硬度の値によって定義される。世界保健機構(WHO)の基準では、全硬度が120mg/L未満を軟水とし、それ以上が硬水とされている。より細かいことを言うと、全硬度60mg/L未満が完全な軟水で、60mg/L~120mg/L未満は中程度の硬水、120mg/L~180mg/L未満が硬水、そして180mg/Lは非常な硬水ということらしい。

英国は60%の地域が硬水だそうだ。英国の各水道水サプライヤーのウェブサイトでは、自分たちの地域の全硬度をチェックするサービスが用意されている。そこで私は我が家のある地域のサプライヤー、Affinity Waterのサイトで調べてみることにした。チェックサービスのページにある検索エンジンに我が家の郵便番号を入力すると、1Lあたりのカルシウム含有量と全硬度が表示された。我が家の水道水の全硬度はなんと、283mg/L‼ こ、これは、究極の硬水ではないか!

では、実家のある大阪府和泉市の水道水はどうだろうか。私がまだ実家にいたころは、和泉市といえば「大阪泉南のガラが悪い片田舎!」というイメージが強かったが、泉北高速鉄道の終点が光明池から和泉中央にのび、大規模ショッピングモールのららぽーと和泉もできて住宅開発が急激に進み、今では大阪府で2番目に人気のある市(1位は箕面市)だそうだ。和泉市を去って23年近くになる浦島太郎状態の私にとって、これはびっくり仰天のニュースだった。

ただ、和泉市の水道水といっても、地域によってその水源が異なる。おそらく私の実家の水道水の水源は、光明池にある和田浄水場であろう。小学生のときにこの浄水場へ社会見学に行ったことがあったと思う。そこで和泉市役所のホームページに掲載されている水道水の水質検査結果で、和田浄水場の資料(平成29年1月のデータ)をチェックしてみた。「全硬度」という項目は見当たらなかったが、「カルシム、マグネシウム等」という項目があった。水道水質基準では全硬度は300mg/L以下でなければならないと定められている。このカルシム、マグネシウム等の「基準値」欄を見ると「300以下」と記載されているから、これを全硬度の項目とみなしていいだろう。ここに示されている数値は66mg/Lであった。アスコットの我が家の水道水と比べると、バリバリの軟水だ。

では、民泊先だった東京都大田区はどうか。東京都水道局のホームページで大田区の水道水質検査結果を見てみることにした。大田区内でも地域によって水源が違う。私たちの民泊先は大森東にあったので、大森本町のデータをチェックした。項目は和泉市の検査結果とほぼ同じように分類されていた。おそらく日本で統一されているものなのだろう。ホームページで閲覧できる最新データは平成28年3月のもので、これによると大森本町の水道水の全硬度は平均81.5mg/Lということだった。これは大阪の実家の水道水よりも高い硬度だが、それでも英国の我が家の水道水にくらべると断然軟らかい。

夫の故郷であるスコットランドの水道水は、素晴らしい軟水であることで名高い。そこで、夫が生まれ育ったインバネスの全硬度をチェックしてみた。Scottish Waterのサイトからダウンロードした資料によると、インバネスの水道水の全硬度はなんと、29.7mg/L!まるで清められた神水ではないか!ネス湖ネッシーがカルシウムやマグネシウムを吸収してくれているのかと思ったが、夫によるとインバネスの水源はネス湖ではないそうだ。どこが水源であるにしろ、すごい軟水だ。

では、私が12年間暮らしたパリはどうか。欧州はほとんどの国が硬水だという。フランスも例外ではない。確かに電気ケトルの底やアイロンの蒸気が出る穴にライムスケールが溜まっているのが気になることもあったが、シャンプーの洗い上がりの質感で悩んだ記憶はない。パリ市役所の水質ページをチェックすると、「全硬度」にあたる項目のDureté (TH : Titre Hydrotimétrique)はフランス固有の単位で表示されており、28.8 °fとされている。この°fは、華氏(ファーレンハイト)のシンボルではなく、degré françaisというフランス独自の単位の記号である。一般的な全硬度の単位への換算法がわからないので、カルシムとマグネシウムの1Lあたりの含有量を見てみると、それぞれ90mg/Lと6mg/Lということだった。これでは東京都大田区大森本町の全硬度とあまり変わらないのでは?フランス独自の単位による硬度の定義の説明を見ると、28.8 °fというのは「どちらかというと硬水」のカテゴリーに入る。

 

続く