けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

魔法の絵本⑤

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注:これは、この記事を投稿した2日後に実家から届いた日本語版の写真

 

超話題のベストセラー『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』は、24時間で魔力を失ってしまった。それどころか、娘はこの本に対して憎悪さえ抱くようになってしまったようで、本にパンチを食らわせている。前夜のあの驚異的な効果は夢にすぎなかったのか。たった1度の実験で衝動的に日本語版とその姉妹版を注文してしまったのは、迂闊すぎる行為だったのだろうか。落胆と動揺を隠しきれない私をよそに、夫は「You are right! I don’t like it either!」と言って娘をなだめると、『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』を放り投げ、別の英語の本を読み始めた。

 

その夜は結局、別の英語の本2冊と日本語の本1冊でやっと娘は寝入った。所要時間は40分ぐらいだったのではないだろうか。夫が投げ出した『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』を拾い上げて呆然と見つめていると、夫がこの本の批判を延々と述べ始めた。この本は子供だましの催眠術で、読み手と聞き手をバカにしている。ストーリーの中に娘の名前を登場させるたびに、懐疑心と嫌悪感が込み上げた。無理やり寝つかせようという意図が見え見え。すこぶる賢い娘(親バカ)には、そんなちんけなトリックは効かない。昨晩はお昼寝をしていなかったうえにたくさん運動したから疲れ果てていただけで、決してこの本が効力を発揮したわけではない、と熱弁をふるって私の手からロジャーを取り上げると、他の絵本の山の下に押し込んだ。夫同様に親バカ丸出しの私は、我が娘が利発すぎてこの本のしかけをすぐに見抜いてしまい、子供だましのストーリーに自尊心を傷つけられて怒ったのだという夫の分析に納得し、落胆を満足に転換することにした。

 

しかし、日本語版と姉妹版まで衝動買いしてしまった「魔法の絵本」だが、1度きりでお役目御免なのだろうか。アマゾンのカスタマーレビューは英語版も日本語版もポジティブなものばかりと思っていたが、よくよく見ると、夫と似たような批判的なコメントも2~3件あった。「無理やり寝かせるだけの本って感じで、絵本の良さゼロ」という厳しい意見もある。だが、買ってしまった以上、使わずに埃に埋もれさせるのはもったいない。特に、まだ効果を試していない日本語版はそうだ。『おやすみ、ロジャー』は表紙を見せただけで娘に拒否反応を起こされそうだが、まだ存在を知らない『おやすみ、エレン』なら、単なる「新しいオカアサンの本」として受け入れてくれるかもしれない。日本から届いたら、とりあえず『おやすみ、ロジャー』はしばらく隠しておいて、『おやすみ、エレン』で実験してみよう。こっちの方がイラストもずっと可愛いし、日本語だから題で『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』のシリーズ本だとバレることはないだろう。

 

こうして自分の衝動的な投資を正当化させるべく、様々な挽回策を頭の中で練り始める私であった。