けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

古人の戒め〜その④

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セルフヘアカラーで「Midlife Crisis」修正後の頭。なかなかの出来❔

 

セルフヘアカラーキットを使ったことのある人ならよくわかると思うが、自分で自分の髪の毛を染めるという作業は、髪が長ければ長いほどcollateral damage(コラテラルダメージ = 副次的な被害)が発生しやすくなる。いくら気をつけて塗布しても、染髪剤が辺りに飛び散って床や壁に色が染みついてしまったり、上半身を完全に覆うケープでも着ないかぎり、髪から服にしずくが落ちて染まってしまったり…だから今回はかなり慎重に塗布作業を進めて行った。

 

塗れた長い髪にゆっくりと洗髪剤を塗布し、塗布し終わった部分は水滴が飛び散らないようにそっと頭のてっぺんに捲し上げる。洗面台にしずくが落ちてしまっているのを見つけると、すぐさま洗い流して対処した。髪全体への塗布完了後、周囲を何度も念入りに見まわして他の被害がないか確認し、赤黒い斑点を見つけると万能表面クリーナーをスプレーして古雑巾で丁寧に拭き取るという作業をしばらく繰り返した。そしてその作業中にも、頭のてっぺんに捲し上げた髪がずれ落ちて壁に触れたり、再びしずくが飛び跳ねないように気をつけねばならなかった。床に四つ這いに近い姿勢でかがみこみ、雑巾を手にバスルームの四方を周到にチェックしている私の姿は、テレビや映画で見る刑事ものドラマの殺人現場証拠隠蔽シーンを演じているかのようだったに違いない。

 

セルフヘアカラー塗布作業中はファミリーバスルームに部外者(私以外全員)立ち入り禁止令を敷いていたのだが、1階でテレビを観ていたはずの娘が突然乱入してきた。ネバネバの長い髪のを頭のてっぺんに巻き上げ、セルフヘアカラー付属のビニール製手袋をはめ、肩に大きめのビニール製ゴミ袋を切り開いたものをマントのように羽織っている私の様相を見た娘は不思議そうに私の顔を覗き込み、「オカアサン、何やってんの?」と(英語で)聞いてきた。「{娘の名前}みたいな綺麗な髪の毛になりたいからヘアカラーしてんの」と適当に誤魔化すと、「なんでぇ~、私の髪の毛みたいになりたいの?変なの~」(英語)と言いながら、照れたような笑みを浮かべて再び1階へ降りて行った。これでなんとか娘の余計な詮索はかわせた。

 

すると今度は夫がやって来て、「またやってんの?」とでも言いたそうな呆れた顔で私を見つめた。コメントは控えていたが、あの無言のまなざしには「懲りない奴だな~」という嘲笑が見え隠れしていた。そこで私が「だから、ミッドライフ・クライシスなの!」と弁明すると、「別に何も言ってないけど...」と言って仕事部屋に戻って行った。

 

所定の時間が過ぎたので、バスタブに頭を突っ込んでシャワーで髪を丁寧に洗い流した。この作業でもセルフヘアカラーのしずくが飛び散らないように気をつけなければならない。付属のトリートメントを髪全体に行き渡らせ、少しおいてからまた洗い流す。その際に少し色の付いた水滴がシャワーカーテンに飛び散ってしまったため、すぐさまシャワーで流した。

 

仕上がりを早く確認したい。濡れたままの髪を見る限りでは、ブチは落ち着いた色に染まっていて、それほど周囲の髪と色の差はないようだ。これが乾いた髪の状態でも同じだろうか。ドライヤーで髪を乾かしながら、鏡に映っている自分の頭をチラチラと見た。髪がほぼ乾いた時点でヘアブラシを髪に丁寧に通し、色々な角度から頭髪をチェックしてみた。キンキンの真鍮色だった部分は、落ち着いた赤みのかかった黒になっている。やはり、セルフバレイヤージュの被害を受けていない部分と比較するとやや明るい。それでも前よりは堅気の人間に見えるヘアカラーになった。

 

この時点での出費額は、最初のDIYバレイヤージュキットが7.99英ポンドと修正のためのセルフヘアカラーキットが6英ポンドで計13.99英ポンド(約2100円)。DIY Disasterの後始末で余計な費用が6英ポンドかかってしまったが、それでもまだまだヘアサロンでの潜在的出費総額120英ポンド(約18000円)と比べるとずっと安上がりだ。

 

鏡で仕上がりを確認して自己満足(というよりは安堵感)に浸っていると、バスルームのほうで娘の甲高い悲鳴が上がった。「ダディ、オカアサン、バスルームに血が!!」という娘の叫びを聞いて、夫がバスルームに飛んで行った。私も後からバスルームを覗くと、「ほら、ここ!それからここと、あっちにも!」と娘が床と壁を指差している。確かに酸化したどす黒い血のような色のしずくがついているが、その正体はもちろん血ではない。念入りにチェックして拭き取ったつもりだったが、セルフヘアカラーの残骸がまだ数ヵ所に残っていたのだ。

 

どうやら私には、完璧な殺人現場の証拠隠蔽は無理なようだ。。。

 

続く