けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

娘(4歳5カ月児)との対話①

f:id:Kelly-Kano:20171122031459j:image一般的にどの国でも、子供は女の子の方が言語能力の発達が早く、したがっておしゃべりも早いと言われている。確かに、我が娘を見ていると「なるほど」と思う。多言語環境の家庭で育つ子供は言葉をはっきりと話し始めるのが遅いケースが多いと聞いていたが、同じようにバイリンガル環境に育つ娘の「ボーイフレンド」のW君(ハンガリー語と英語)と比べても、単一言語環境で育っている周囲の子供たちと比べても、娘がはっきりと言葉を発するようになったのはかなり早かった。

 

娘はおしゃべりが達者なだけでなく、非常に強い意志の持ち主で、1歳を過ぎた頃から毎朝のように、その日の服装でもめ事になっていた。私が選んだ服をほぼ毎回拒否し、自分であれこれと選ぶ。コーディネーションに自分なりのこだわりがあり、私のアドバイスをなかなか受け入れてくれない。幸い、今年の9月に小学校幼稚部に入学して制服を着るようになったので少し楽になったが、それでもソックスやタイツの色でもめることがよくある。

 

夏服である黄色いギンガムチェックのワンピースの場合は、おそろいの黄色いギンガムチェックのリボンかフリル付きの白い短ソックス。グレーのプリーツスカートかワンピースの冬服には、グレーのハイソックスかタイツ。私は白いハイソックスが個人的に好きではないのでグレーのものを買って与えたのだが、最初はこれを「暗い色だから悪者に見える!」と嫌がってなかなか受け入れず、しばらく夏用の短ソックスを履いていた。気温が下がってきてクラスメイトがグレーのハイソックスを履いているのを見ると、やっと納得してくれた。

 

タイツも同様、最初はかなり抵抗していたが、仲良くなったお友達が穿いている(ズボン、スカートやタイツ、パンストなど、脚を通して身に付ける物は「穿く」で、靴や靴下など足の下に敷くものは「履く」ということらしい)のを見ると、なんとか受け入れるようになった。だが、「ライトグレーやホワイトのタイツはダメ。『普通の』グレーがいい」と主張する。冬服のグレーのワンピースも1着持っているが、胸のファスナーのスライダーがシンプルなリング状なので、「かわいくない。つまんない」と言って拒否している。今からこんな調子では、ティーンエイジャーになったらどれほどパワーアップするのだろうかと、楽しみでありながら恐ろしくもある。

 

そんな娘との対話は実におもしろい。相手を子供だと侮っていい加減なことを言うと、かなり鋭いツッコミを入れてくるので気を付けなければならない。だから大人を相手にするかのように、きちんと正確な事実を教えるように心がけている。だが、私たちが子供の頃と比較すると、今の社会では人の生き方の多様化が著しく進み、単純明快な固定概念に基づく説明は通用しなくなりつつある。子供にもわかりやすく、かつ現在の事実を正しく反映させて答えなければならない質問もよく飛んで来る。そして何気ない、無邪気な会話が、社会問題や事象の議論へと発展することもある。

 

数週間前のこと。夕食の準備をしていると、テレビを観ていた娘がキッチンにやって来て、突然結婚の話を始めた。「女の子は女の子と結婚できないのよ」と断言する娘に、「う~ん、実はね、国によってはできるんだよ」と私は現代社会の事実を忠実に伝えた。それを聞いた娘は眉をひそめ、「でも、もちろんイングランドではできないでしょう!」と反論してきた。「それがね、できるんだよ!」とまたしても私は事実を教えた。「スコットランドもそうだし、世界には女同士や男同士が結婚できる国がいくつかあるんだよ。そしてその数も増えてきてる」。それを聞いた娘は「へえ~!」と驚いたが、事実を事実と受け入れたようだった。だが、日本が同性婚を認めているかについての質問はしてこなかった。

 

私はここから議論を少し発展させ、「ありのままの自分で生きられる社会って、素晴らしいんだよ。あなたの親戚にも、女同士でファミリーを築き上げている人がいるんだ。彼女にはもうすぐ赤ちゃんが生まれるの」と告げた。この女性は夫の姪(正確には「従姪」)で、一族に正式にカミングアウトしたのは2年前。結婚はしていないものの、女性のパートーナーと同棲している。2人でじっくり考えた末に精子バンクを利用して妊娠し、来年の1月に出産する予定だ。さすがに精子バンクのことは説明しなかったが、女性同士のカップルに赤ちゃん誕生という話を娘はかなり真剣に受け止めたようだった。

 

これは先週の話。グレーのタイツが洗濯でまだ乾いていなかったため、ライトグレーのもの(この時我が家にあったのは、ライトグレー、ブラック、グレーの3足組のみ)を穿かせようとすると、ものすごい抵抗にあった。「まだ乾いていないからしょうがないでしょ」と言って聞かせても聞く耳持たず。ブラックはその存在さえ認めない。仕方がないのでグレーのハイソックスを履かせたが、腰回りが寒そうで心配になった。娘の学校には、男の子と同じグレーの長ズボンで通学している女の子もいる。そこで、「タイツが嫌なら、これから長ズボンの制服にする?」と訊ねてみた。娘はズボンやレギンスも好きだが、色や模様にかなりこだわる。グレーの長ズボンなど問題外なのはわかっていたが、一応意見を聞いてみた。答えは案の定、「絶対ヤダ!」。そして、「女の子はズボンで学校に行くもんじゃない」と主張するので、それは事実に反すると反論した。

 

実際、娘のクラスメートの女の子のなかにも、10月半ばに入って以来、毎日長ズボンの制服で登校している子が1人いる。特に宗教上の理由があるわけでも、男勝りだからというわけでもなさそうだ。では、寒がりなのだろうか。キャンディ・キャンディのような金髪天然パーマの女の子で、娘とも結構仲が良いようだ。その子の例をあげると、娘は「Rちゃんはそうだけど、私はヤダ」と言った。そして、「でも、女の子はズボンを穿いてもいいけど、男の子はスカートを穿いちゃいけないんだよ」と言ってのけた。

 

「穿いちゃいけない」という表現にひっかかりを覚えた私は、ここでもやはり事実を教えるべきだと感じた。そこで、「そんなことはないよ。男でもスカートを穿く人はいるし、ダディの故郷スコットランドの民族衣装はキルトといって、男性が穿くスカートなんだよ」と告げた。すると娘は「それってバカみたい」と大笑いするので、「そんなことを言ってはいけません」と諭した。民族衣装は保護すべきヘリテージであるし、規則に反したり、他人に危害を加えないのであれば、個人の好みを尊重すべきだと。とは言ったものの、果たして娘の学校が男児のスカート登校を認めているかどうかは疑わしい。

 

だが、今の英国では、あの超名門全寮制男子校イートンカレッジ(制服は燕尾服!)の学長が、「性転換をした生徒がカレッジで学業を続けるのを認めるべきだ」と主張する(まだ実際にそのような事態に直面したことはないとの注釈付きだったが)ほど社会は進化している。では、「敬意」「責任感」「不屈の努力」「共感」「好奇心」をコアバリューに掲げる娘の学校ではどうだろうか。まあ、小学校では性転換のレベルにまで議論がエスカレートすることはないだろうが、校長先生(女性)に一度、男児のスカート登校を認めるか否かについて質問してみようか。

 

続く