けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

娘の小学校入学②

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「さあ、今日から待ちに待った学校だよ!ほら、制服だよ!早く起きよう!」

布団の中にうずくまってなかなか出てこない娘のモチベーションを上げるため、制服をかざしながら囃したてる。だが布団からは「んーーーーーっ」という唸り声が聞こえてくるだけで、一向に起きる気配はない。そこで私は文字通り布団から娘を引きずり出した。たたき起こされた娘はかなり不機嫌だったが、私が目の前にかざした制服を見ると、喜びにクリクリの目を輝かせ、大きな口を開けて歓声を上げた。まだ9月初頭なので夏服でも問題はない。だから、入学という晴れ舞台のために、娘が気に入っている夏用の黄色いギンガムチェックのワンピースの制服と、お揃いの黄色いギンガムチェックの縁飾りのついた白いソックスというコーディネーションを選んでいた。

 

娘は洗面を済ませて制服を着ると、嬉しそうに階段を下りてダイニングルームに移動した。実は、入学の1週間前に担任の先生と30分程度親子で顔合わせをするセッションがあり、教室で夫と私が先生と話しをしている間、娘は担任補佐の女性と教室の一角で遊んでいた。その時担任補佐の女性が出してきてくれたユニコーンのおもちゃ(人形と言うべきだろうか?プラスチック製なのでぬいぐるみではない)の中にえらく気に入った一頭があったらしく、娘は朝食の間そのユニコーンの話ばかりしていた。「他の子に取られないように、横に取り置きしておいて欲しいとお願いしたから大丈夫かしら?早くあのユニコーンで遊びたい!あれはプリンセスユニコーンなの、だから誰にも取られたくない!」などとひっきりなしに言うので、夫と私は「学校のおもちゃはクラスメートのみんなと仲良く共有しないといけない」と諭した。

 

朝食を終えたのは8時10分過ぎ。早く歯磨きしなさいと急かしても、娘はバスルームに向かう代わりに自分の部屋に行っておもちゃで遊び始めるし、私と一緒に娘を学校に送り届けると宣言していた夫は夫でiPhoneiPadでメールをチェックするのをやめない。私は時計を見るたびにイライラし、2人を急かす口調がどんどん軍隊化していった。子供の登校と自分の出勤を控えた朝は戦場のごとく、という話はよく耳にしていたが、まさにその通りだ。自宅勤務の私は会社勤めのワーママ(またはリーマム?)より精神的にかなりゆとりがあるはずだが、やはり娘の初登校日から遅刻というわけにはいかない。鬼軍曹と化した私は、なんとか8時23分に娘と夫を玄関の外にたたき出すことに成功した。

 

リハーサルでは25分で学校に到達した娘だが、この日は初登校ということで興奮しているのか、おしゃべりは止まらないのに足が頻繁に止まる。この調子では遅刻しかねない。そこで私は、「学校まで競走!」と駆け足を始めた。するとレース魂を煽られた娘は、私の思惑通り喜んで走り出した。この作戦は大当たりで、ジョギングレベルのペースで通学路の半分を消化することができた。

 

娘の小学校は住宅街の真ん中にあり、学校のすぐ横を走る道路は大通りというほどの広さはないものの、バスやスーパーに仕入するトラックなどが通る交通量の多い道である。学校側は生徒の保護者に極力徒歩通学をするように訴えているが、それでも学校までの道のりを100%徒歩でこなせない距離に住む子供たちは、やむを得なく途中まで自動車登校する。学校はそのような家庭に対し、付近の住民に迷惑をかけたり、この道路の交通を妨げないよう、学校からおよそ800メートル離れた場所にある区営図書館の駐車場に車を止め、そこから歩くように呼び掛けている。実際この駐車場には、朝8時から9時までの間はこの学校に通う生徒の保護者のみが駐車できるスペースが6つほど確保されている。もちろん、6つ程度では到底需要を満たすことはできない。だから、このスペースを使わない人々は、学校付近でも交通量の少ないエリアにある教会やコンビニの駐車場など、できるだけ近隣住民に迷惑のかからない場所に車を止めているようだ。だが、それでも学校のすぐそばのこの道路まで車で来る人も比較的多数いる。そういう人たちは歩道に車を半分乗り上げて駐車し、そこから徒歩で子供を送り届けるため、学校付近は群衆と自動車でなんともカオス的だ。学校から半径数100メートルのゾーンは登校する学童と彼らを送り届ける保護者たちが群がって移動しており、校門の手前は隙間が見えないほどであった。その光景は、はるか昔に世界史で学んだ「ゲルマン民族の大移動」を彷彿とさせた。

 

続く