けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

娘の小学校入学①

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9月の第2火曜日、娘がついに小学校に入学した。小学校といっても、イングランドの教育制度では正式な義務養育は5歳からで、4歳の娘が入学したのは小学校のReception Yearと呼ばれる準備学年のようなものである。イングランドの公立小学校(Primary School)は、4歳から6歳までのInfant School (小学校幼稚部とでも訳すべきか?)と7歳から10歳までのJunior Schoolに分かれている。これが公立の初等教育で、Junior Schoolを卒業すると日本の中学校にあたるSecondary Schoolに進み16歳まで学ぶ。Secondary School終了前の学期末には、GCSC(General Certificate of Secondary Education/一般中等教育終了証)という全国統一テストを受け、一定の基準に達していれば大学進学のための勉強をするSixth Formという2年間の課程に進むことができる。義務教育はこのGCSC受験までだ。私立教育だとシステムが若干異なるのだが、GCSCを受けるのは同じ時期である。これがスコットランドだとさらに異なるからややこしい。

 

我が家の周辺には評判の高い名門私立学校が数多くあるのだが、現在の私たちには娘をReception Yearから私立学校に通わせる財力はない。そこで近所の公立小学校に入学させることにしていた。イングランドの公立教育の場合、自分の住んでいる家が所属する地方行政区画の管轄下にある公立学校を希望する順に6校ぐらいまでリストアップし、カウンシル(「地方行政区議会」などと訳されることもあるが、日本の区役所のようなもの)に入学申請する。だいたいどの学校も1クラス30人制で、クラス数も2つ程度。当然のことながら、人気の高い学校は競争率が高くなる。だが、入学試験があるわけではなく、選考基準は住んでいる家と学校間の距離や、兄弟姉妹が同じ学校に通っているかなどだそうだ。我が家が所属する地方行政区はロイヤル・バラ・オブ・ウィンザー・アンド・メイデンヘッドなのだが、隣の行政区ブラックネル・フォレストとの境界線の近くにある。第1志望だった小学校はブラックネル・フォレストの管轄下にあるのだが、我が家はこの学校のCatchment(キャッチメント/学区)内にあるということで、志望校リストに載せて入学申請することができた。

 

この学校は、英国の教育水準局Ofsted(Office for Standard in Education)から学校監査の最高評価点にあたる「Outstanding」(日本語で言えば「優」)を受けており、近所の人たちも絶賛している人気校である。だから、学区内にあってもブラックネル・フォレスト行政区の管轄外にある我が家は優先されないのではないかと気をもんでいたが、4歳児でも徒歩で通学できる距離である(しかも志望校のうち我が家から徒歩通学が可能なのはここだけ)という点が決め手となったようだ。娘は晴れて、(親の)希望通りこの学校に入学することになった。

 

だが入学といっても、日本の学校のように入学式といった儀式的なものはない。さらに娘の学校の場合、他の多くの学校が9月の第1月曜日からスタートしているというのに初登校日は第2火曜日で、しかもその週は半日授業という「ソフトオープニング」のようなノリであった。子供たちを徐々に学校生活に慣れさせるための配慮なのだろう。そしてその週は、木曜日と金曜日だけ学校で給食を食べることになっていた。保育園に通っていた娘は他の子供たちと一緒にお昼ご飯やおやつを食べることに慣れているが、保育園経験のない子たちが集団でご飯を食べることにかなりのストレスを感じるというケースが結構あるらしい。学校生活の最初の週は2日だけ学校で給食というのも、子供たちのストレスを軽減するためなのだろう。「過保護なのでは?」と一瞬疑問を抱いてしまった私だが、すぐさま自分のスパルタ母的一面にハッと驚き、自制した。

 

自分たちの都合の良い時間に連れて行って、これまた都合の良い時間に迎えに行けばよかった(もちろん開園時間の枠内での話だが)保育園とは違い、小学校は授業時間が決まっている。だからそれに合わせて送り迎えしなければならない。娘の学校では、朝8時55分までに子供たちを教室に送り届けなければならない。そこで、徒歩で通学させることを公約していた私は、娘の足で自宅からどの程度の時間がかかるかを把握するため、小学校「入学」の前日に娘と登校のリハーサルをした。通学路には、アヒルが数羽住んでいる池や野花が咲いている空き地などの「誘惑物」がいくつかある。夫と私だけなら徒歩で20分弱程度の距離だが、娘のスピードと誘惑物の存在を考慮するとその倍はかかる可能性もある。リハーサルの道中、娘は池の前に来るとアヒルに挨拶するために立ち止まったり、野花を見つけるとしゃがみ込んで摘み取ったり、歩道に落ちているドングリを拾ったりしていたが、それでも25分で学校にたどり着くことができた。この測定値を夫に報告し、2人で話し合った結果、登校のために家を出発するのは少し余裕を取って8時20分という結論に達した。

 

そしてついに初登校の日。それまでは8時過ぎに起床していた私たちは、夫と私のiPhoneiPad計4台の目覚まし機能で7時に起床した。その日私は、娘を学校に送り届けた後とんぼ返りで帰宅し、9時30分からのズンバ教室に(車で)行く予定であった。これまで9時30分の朝一ズンバ教室に行くときはノーメイクが定番だった私だが、その日は娘の入学日ということで、少し気合いを入れてファンデとマスカラと色付きリップクリームを塗った。それでも入学式のような改まったものはないため、ひざ下丈のフィットネスレギンスとパーカーにトレーニングシューズという姿であった。某ママ系ファッション雑誌が推奨している「アスレジャーファッション」(「アスレジャー」というのはこれまたこの雑誌が創り出したカタカナ語かと思っていたが、これはアメリカで生まれたれっきとした英語の造語らしい:https://en.wikipedia.org/wiki/Athleisure)とでも言いたいところだが、ディスカウントショップで買い集めたチグハグのフィットネスウェアを纏った私は、まったく「絵」になっていなかったに違いない。

 

娘は小学校に入学する数週間前から、「私は恥ずかしがり屋だけど、でもすっごくワクワクしてる!」(英語での発言である)と学校に行くのを楽しみにしていた。そして我が家にお客さんが来るたびに、嬉しそうに制服を見せたり、制服ファッションショーをやったりして盛り上がっていた。2歳ぐらいの頃から夜8時前に寝つくことはほとんどないこの子を、初当校の前夜は普段よりできるだけ早めにベッドに入れなければと私は躍起になっていた。7時過ぎに入浴させて7時45分にはベッドに寝かせたのだが、興奮していた娘はなかなか寝つかず、普段より少し遅い時間になってやっと寝ついた。寝る時間が遅いので当然のこともかもしれないが、娘は元来早起きタイプではない。恐れていたとおり、初登校の朝も娘はなかなかベットから出たがらなかった。

 

続く