強がりと本音(注:これは2016年1月に他のメディアに掲載した記事に手を加えたもの)
午後の仕事の友。
アルジェリア人シンガーソングライターのスワッド・マッシは、大のお気に入りアーティストのひとり。この人の透き通るような歌声は、アラビア語(注:彼女のはアルジェリアの方言。アラビア語と言っても、国によってかなり方言に違いがあるそうだ)の歌でも、フランス語の歌でも、心にしみる。
この人のアルバムは5つ持っているが、どれも順位をつけることができないぐらい好きだ。
今聴いているこのアルバムの中にある、『Yemma』というアラビア語の歌は、聴くだけでも心に訴えるものがあるが、フランス語の対訳を読むと、この上なく感銘を受ける。フランス語で書かれた副題は、「Maman, je te mens(お母さん、あなたに嘘ついてるの)」。
押しボタン式電話に番号を押す音で始まり、次に呼び出し音。そして受話器からスワッドのクリスタルのような声がギターのメロディーに合わせてアラビア語で歌う。
(試訳)
お母さん、これは嘘なのよ。あなたに嘘をつかないといけないの。
「何も不足してないわよ」
お母さん、これは嘘なのよ。あなたに嘘をつかないといけないの。
「お金は十分にあるわ」
お母さん、これは嘘なのよ。あなたに嘘をつかないといけないの。
「誰も私を侮辱したりしないわよ」
お母さん、これは嘘なのよ。あなたに嘘をつかないといけないの。
「涙なんて流してないわ」
こっちはとても寒いわ。
誰も私のことなんて気にしてくれない。
いったいどうやって、ここに留まることができたんだろう?
そして、いったいどうやって、冷たい大地に慣れることができたんだろう。
お母さん、太陽が恋しくて仕方がないわ。
いったいどうやって、ここまで耐えてこれたんだろう?
お母さん、鳥かごの中の鳥なんて、
何の役にも立たないわ。
もし大地が言葉を話すことができたら、
きっと私達を追放することでしょう。
豊かさは空から落ちてくるのに、
飢えで死んでしまう人達がいるのよ。
生まれ故郷を去って異国の地で生活する女性の強がりと本音を歌い上げた一曲。
いつしかの自分に重なるところがある。。。