けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

Superdry 極度乾燥(しなさい)と私 ~その ②

それから2年ぐらい経過して(すなわち今から6年ぐらい前の話)、私のショッピング遠征範囲内にこのブランドの店舗をいくつか見かけるようになった。当時の私は外から眺めているだけであったが、どの店舗も店内は全体的に暗めの設定で、スポットライトで商品を照らし出しているように見受けられた。だが、外からの雰囲気は、似たような路線の米ブランド、アバクロンビー&フィッチ(日本人の間では「アバクロ」と呼ばれているそうだが)よりも入りやすそうだ。

 

アバクロは、もう最近はあまりやっていないようだが、モデルばりの若いイケメン坊やが半裸でシックスパック(フランス人はシックスパックのことをよく、"tablette de chocolatタブレット・ドゥ・ショコラ=板チョコ)"と表現する)を披露しながら店舗の入り口に立っていて、中年女の私には近づきがたかった。勇気を奮って中に入れば、これまたモデルばりの超スリムで超脚長のお嬢ちゃんたちが、「こんにちは!今日は何をお探し?」みたいなノリで話しかけてくる。こんな若々しいBeautiful Peopleのスタッフ陣に囲まれると、自分がひどく場違いの人間に感じ、被害妄想なのかもしれないが、彼らの一見フレンドリーな眼差しも、「あんたのようなメタボの凡人オバハンに着れる服なんて、この店には置いてないよ!何歳のつもり?」といった嘲りの視線に見えてしまう。そのうえ、店内にガンガンふりまかれている香水の匂いは超濃厚で、数秒のうちに眩暈で頭がクラクラしてくる。そしてそのどぎつい香水の匂いは、店を出た後も頑固に自分の衣服や髪にこびりついている。だから私はアバクロの服を店舗で買ったことはあまりなく、セールの時にネットで注文するのがオチだった。

 

Superdry 極度乾燥(しなさい)の店舗は、そんなアバクロのものよりもずっと近づきやすく見えた。店員も多種多様な体型と容貌の普通人なのでホッとする。何度かショーウィンドウ内のディスプレイで「いいな」と思うパーカーやトップスを見かけ、購買意欲をそそられたことがあった。だがやはり、生粋の日本人である私が、意味不明の奇妙な日本語が堂々とプリントされた服を着て歩くというのは恥ずべきことではないだろうか。いや、それでも気になるアイテムがいくつかある。しかし、日本人としてのプライドが許さない。私の心はしばらくそんな葛藤に苦しんでいた。最終的に、変な日本語が書かれていないアイテムをセール価格でなら買ってみてもいいだろうという妥協点を見出し、セールシーズンに自宅から一番近い店舗を覗いてみることにした。

 

 

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これが当時私の自宅から一番近かった店舗。昨年にもう少し近いショッピングモールにより大きな店舗ができた。今では学生に20%割引を提供しているようだ。

 

 

ところが、セールシーズンが訪れ、他のほとんどのブランドが30~50%オフセールをやっている中、Superdry 極度乾燥(しなさい)の店舗には「セール」のセの字も書かれていない。「セールやってます!」と宣伝していないだけで、店内の商品は実はちゃんと割引されているのではと思い、中に入っていくつかのアイテムをチェックしてみたが、値段が下方向に訂正された形跡は一切ない。店員にセールをやっているのかどうかを尋ねるのは恥ずかしいので、スマホで「Superdry Sales Dates」のキーワードでググってみた。すると、このブランドに関するフォーラムのようなサイトに、このブランドはセールをやらない主義であるというような書き込みがあるのを見つけた。検索結果をさらにスクロールしていくと、同じようなことを書いた記事がいくつもあった。

 

これには私はかなりナヌっ⁉︎ときた。それはまるで、以前から少し気になっていた男子に声をかけようと近づいた時、その男子が誰かに「俺、お金持ってる女子しか相手にしないんだ」と誇らしげに言っているのを立ち聞きしてしまったかのようだった。

 

自分の信念を曲げ、妥協案をひねり出してまで歩み寄ったというのに、なんともお高くとまった態度だ。プライドを傷つけられた私は、「何それ、傲慢すぎるやん!それやったら、あんたとこのなんかいらん!」と関西弁で(心の中で)叫び、ふんっと鼻を鳴らして店を立ち去ったのだった。

 

~続く~