けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

古人の戒め〜その③

昭和の田舎のヤンキーか、たちの悪い野良のブチ猫のようになってしまった私の頭髪を見た夫は、どう対応すべきか決めかねていたのか、しばらく無言だった。ツッコミを入れられる前に先手を取って事態を説明する方が賢いととっさに判断した私は一言、「Midlife Crisis」と言った。30年前なら、「若気の至り」で済ませることができただろうが、やはり、40半ばのオバサンがDIYバレイヤージュに大失敗し、こんなみっともない頭になってしまうというのは、「Midlife Crisis(ミッドライフ・クライシス)=中年の危機」としか表現のしようがない。

 

こういう時に色々と詮索すると私の神経を逆なでるだけであるということをよく心得ている夫は、同情のまなざしを向けただけで、特に何もコメントしなかった。そこで私は、「髪を束ねれば、あまりわからないでしょ?」と、手元にあったヘアゴムでポニーテールをしながら問いかけた。夫は返事に困っている様子を見せ、「うーん、かもね」とだけ言った。幸いにも、普段は目ざとい娘は私のヤンキーヘアには気が付かなった。

 

翌朝、娘を学校に送って行ったあとにズンバ教室に行くことになっていた私は、起床と共にフィットネスウェアに着替えた。鏡の前に座って髪にブラシをかけながら、前夜の大失態のダメージを改めて検証した。室内照明の明かりで見ていた前夜と比べて、ブチ部分のキンキン度がパワーアップしている。慌ててひっつめ髪にしたが、やはり前頭部の両サイドにできているブチは上手く隠すことができない。こんな頭で娘を学校に送って行ったら、他の保護者に変な目で見られるのではないだろうか。いっそのこと、野球帽をかぶって、アスレジャースタイルを極めているフリでもしようか。だが、そのとき我が家にあった野球帽は、いずれもガレージの奥深くのどこかに眠っていた。探し出す時間はなかったので、仕方がなくそのまま家を出た。

 

いつもはイヤリングや口紅の色をちょっと変えただけでもコメントしてくる娘だが、何故かこのヤンキー頭にはいまだに気づいていない。学校でも、他の保護者からの視線やコメントはなかった。そしてズンバ教室でも、私の奇妙な髪色にコメントした人は誰一人いなかった。もしかしたら、それなりに自然に見えるのかもと思い、ズンバ教室からの帰り道にクルマの日よけの裏にあるミラーでチェックしてみたが、やはりキンキンのブチはかなり目立っている。そう簡単には誤魔化せない代物だ。これはなんとか修正しなければみっともない。周囲の人たちは気を使って何も言わなかっただけなのだろう。きっと内心、「あらま、とんでもないことになっちゃってる…」と思っていたに違いない。帰宅してシャワーを浴び、普段着に着替えてメイクを済ませた私は、再びマイカーのハンドルを握り、スーパーマーケットへ向かった。ちなみに頭はひっつめ髪のまま。お目当ては当然、市販のセルフヘアカラーキット。

 

これが他人の行動なら、「またDIYすんの?懲りない奴!」と私も呆れたに違いない。自制する声が頭の中でかすかに響いていたが、近所のスーパーのヘアケア製品コーナーに並ぶセルフヘアカラーキットの前に立つ私には、「馬の耳に念仏」であった。様々なブランドと豊富なカラーオプションの中から私が選んだのは、ロレアル(再び!)のキャスティング クリームグロスシリーズのブラックチェリーという色。その名のとおり、ダークレッドがかかった黒なのだ。お値段は6英ポンド(約890円)。その晩、再び自宅のファミリーバスルームに籠り、ミッドライフ・クライシスの後始末に取りかかった。

 

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 懲りない奴。。。

 

 

続く