けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

WhiskyとWhiskey (注:他のメディアに限定公開していた記事に手を加えたもの)

f:id:Kelly-Kano:20170906223921j:plain

 

ウイスキーの英語スペルには、WhiskyとWhiskeyの2種類がある。日本語にも「ウヰスキー」や「ウイスキー」などの書き方があるが、前者は旧字であり、現在ではブランド名/商品名に用いられているだけであって、酒税法国税省では「ウイスキー」の表記を使用している。では、英語のスペルの違いはどこから来たものなのだろうか。

 

ウイスキーの話題になるとどうしても触れたくなるのが、「スコッチウイスキー」の定義。まず、スコッチウィスキー(または単にスコッチ)と呼ばれるものは、スコットランド産のモルトウィスキーまたはグレーンウィスキーでなければならない。これは以前から知っていた。シングルモルトウィスキーのことをスコッチと呼ぶと思っている人もいるようだが、これは違う。ブレンドでもスコットランド産のウィスキーならスコッチ。シングルモルトでもスコットランドで製造されたものでなければ、スコッチとは呼べない。

しかも、スコッチと呼ばれることを許されるウィスキーは、2009年スコッチウィスキー規則 (The Scotch Whisky Regulations 2009) という法律が定める基準を満たしているものだけ。

その基準とは(面倒臭いのでウィキペディアの定義をコピペさせていただいた):

スコットランドで製造されたウィスキーであり、

(a)スコットランドの蒸留所にて、水および発芽させた大麦(これに他の穀物の全粒のみ加えることができる。)から蒸留されたものであって、
(i)当該蒸留所にて処理されマッシュとされ、
(ii)当該蒸留所にて内生酵素のみによって発酵可能な基質に転換され、かつ、
(iii)当該蒸留所にて酵母の添加のみにより発酵されたものであり、
(b)蒸留液がその製造において用いられた原料およびその製造の方法に由来する香りおよび味を有するよう、94.8パーセント未満の分量のアルコール強度に蒸留されており、
(c)700リットル以下の容量のオーク樽においてのみ熟成されており、
(d)スコットランドにおいてのみ熟成されており、
(e)3年以上の期間において熟成されており、
(f)物品税倉庫又は許可された場所においてのみ熟成されており、
(g)その製造および熟成において用いられた原料ならびにその製造および熟成の方法に由来する色、香りおよび味を保持しており、
(h)一切の物質が添加されておらず、または
(i)水
(ii)無味カラメル着色料、もしくは
(iii)水および無味カラメル着色料
を除く一切の物質が添加されておらず、かつ、
(i)最低でも40%の分量のアルコール強度を有するもの

なのだ。

そして本題の WhiskyとWhiskeyのスペルの違いの由来はというと、基本的にアイルランド産と米国産のウィスキーはWhiskeyという具合にKとYの間にEが入り、スコットランドやカナダ、日本を含めた世界の他の地域で製造されたものはWhiskyと綴られるらしい。その背景にあったストーリーとは差別化である。

1870年代にスコットランドで製造されていたウィスキーは、Coffey Still(カフェ式連続式蒸留機)で蒸留された非常に質の低いものであったそうだ。そこで、アイルランドが米国輸出向けのウィスキーをこの質の劣るスコットランド産のものと差別化する為にKとYの間にEを入れたWhiskeyという綴りを使うようになったのがきっかけで、アイルランド産ウィスキーの方が広く普及していた米国では、現在でもこの綴りを好むということらしい(参考: Whisky or Whiskey - Master of Malt)。これは知らなかった。

それでも、George Dickel(テネシーウィスキーのメーカー)やMaker's Mark(ケンタッキー・ストレート・バーボン)などのスコットランドにルーツを持つ米国の蒸留所は、Whiskyというスペリングを使っているとのこと。マニアックな私は早速この2つの蒸留所のホームページでファクトチェックをしてみたが、確かにそうなっている。

うーむ。面白い。奥が深い。ただの酒好きでそのような点に今まで注意を払っていなかったので、大変勉強になった。🥃 Slàinte!(スコットランドゲール語で「乾杯!」にあたる表現。「スランチェ」と発音)


ちなみに余談ではあるが、ニッカのホームページによると、現在ではスコットランドでもほぼ見かけられなくなったこのカフェ式連続式蒸留機は、高品質グレーンウィスキーを生み出すそうで、ニッカの宮城峡蒸留所では今でも使っているとのこと。
竹鶴さんと、朝日麦酒の社長だった山本為三郎さんの本物の酒づくりにかけた情熱が果たした日本上陸だったそうだ。

 

偉人たちのレガシーに乾杯。