けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

魔法の絵本①

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アマゾン・プライムは恐ろしい。右手の人差し指1本でいとも容易くショッピングができ、週末でも翌日配達。しかも、モノによっては当日配達も可能。あまりにも簡単すぎて、便利すぎて、とてつもなく恐ろしい。私のような衝動買いの常習犯には、危険すぎるサービスだ。ブリタニー・スピアーズの17年前のヒット作『Oops, I did again!』(あの曲がヒットしたのはそんなに昔のことなのかと実感するとこれまた恐ろしいが、あのビデオはなかなかお茶目でよかった)じゃないが、まさに「あっ、またやっちゃった!」の境地だ。配達業者は複数あるが、クリスマスや正月のような祝日でも配達してくれるところもある。配達業者に商品を託す前に注文を処理するアマゾンや小売業者の従業員も、とんでもない時間帯に就業しているのだろう。なんだか労働者の搾取に加担しているようで罪悪感にかられることもあるが、なんとも便利な世の中だ。

 

だが、ここの本題はアマゾン・プライムの恐ろしいほど便利なオンラインショッピングサービスではない。それを介して購入したアイテムのひとつである。事の始まりは、私が電子購読している雑誌『ヴェリイ』8月号に掲載されていた記事。この雑誌の主力読者層は私より10歳+下のアラサー世代だが、高齢出産した私の場合、自分の世代を対象とした雑誌に掲載されている子育て関係の記事は子供の年齢がイマイチ合わない。だから『ヴェリイ』の方が参考になることが多い。問題の記事は、「真夏の夜の寝かしつけ!」と題された、子供の寝かしつけテクニックに関するものだった。「2TIPS TO GET YOUR KIDS TO SLEEP」という英語の副題まで付いている。見開きページの右側は、「たった10分で寝かしつけ」と話題の世界的ベストセラー『おやすみ、ロジャー』を監訳した快眠セラピスト、三橋美穂さんのインタビュー。そして左側は、日本人で初めて「妊婦と子供の睡眠コンサルタント」の資格を取得したNY在住の愛波文さんという女性のインタビュー。2人の快眠スペシャリストが紹介する寝かしつけ方だから、「2TIPS TO…」という訳だが、何ゆえ英語の副題なのか。どちらも海外発のテクニックだからだろうか、などと勝手な詮索を展開しながらも、なかなか寝付かない4歳の娘を持つ私は、「10分で熟睡絵本!」というふれ込みのこの絵本にただならぬ好奇心を抱いた。そして、三橋美穂さんのインタビュー記事を読み終わった40秒後には、『おやすみ、ロジャー』の英語版をアマゾン・プライムUKで注文完了していた。これは、私の衝動買い史上最短記録だったかもしれない。

 

作者はスウェーデンの行動科学者で、物語の中には数多くの「眠くなるしかけ」があるらしい。自律訓練法という医療メソッドも盛り込まれているそうだ。この本を日本語訳する際には、リラックス効果があるような言葉を選ぶことにこだわったそうだ。翻訳の仕事もしている私にとって、非常に興味深い話である。英語版を購入したのは、こちらの方が手元に届くのが断然早いから。日本語版だと、アマゾン・ジャパンで注文して大阪の実家に発送してもらい、実家のジジ&ババ(私の両親)にお願いして英国の私の元へ送ってもらう、という手の込んだロジスティックスが必要になる。アマゾン・ジャパンからこちらへ直接発送してもらえば?と思う人もいるだろう。私がそれをしない理由は、過去にフランスからアマゾン・ジャパンで直接配送を指定して注文した本がフランスの税関に引っかかり、本の値段の3倍近くも関税で持って行かれるという苦い経験をしているからだ。(追記: 今思い出したのだが、関税だけで本の3倍近くになったのではなく、送料と関税の合計がそうだった)

 

とにかく、こうして『おやすみ、ロジャー』の英語版『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』 を衝動買いしてしまった。宣伝記事に踊らされているだけなのかもしれないが、三橋美穂さんの説明には説得力がある。それほど高価なものではないし(5.59英ポンド=約820円)、試してみる価値はあるかもしれない。木曜日の午後に注文し、手元に届いたのは翌日金曜日のお昼すぎ。しかも、プライムメンバーなので送料無料。さすがアマゾン・プライム。恐るべき便利さだ。アマゾンのボール紙封筒を開け、本を取り出す。英語版のタイトルの上部には、「A New Way of Getting Children to Sleep」と、期待できそうなキャッチコピーが掲げられている。「子供を寝かしつける新しい方法」 ― 実に頼もしい。我が家では、お休み前の本読みは夫が英語の本、私が日本語の本という役割分担になっている。そもそも、我が家で日本語を読めるのは私しかいないため、私が日本語を読むのは当然のことだが、夫が出張などで不在の時に、「ダディが恋しいから、ダディの本を日本語のフリして英語で読んで」と娘に(英語で)ねだられることがよくある。『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』 を衝動買いした日も夫が出張で翌日の夕方まで戻らないため、英語の本を数冊読み聞かせた。

 

翌日の金曜日に帰宅した夫に早速この本を見せ、私が『Very』で読んだインタビュー記事のことを説明すると、夫は「ほほう」とそれなりに関心を示した。その日の夜、娘は数日ぶりにネイティブスピーカーの夫が英語の本を読んでくれることに大喜びしていた。最近では、私が夫の代わりに英語の本を読んでいる際に単語の発音を間違えると、娘は横から訂正を入れてくる。嫌味のない、さらっとした訂正の仕方だが、4歳児とは言えなかなかチェックが厳しい。だからこの魔法の本も、英語版は夫が読まないと効果は出ないのかもしれない。だが、「Daddy, story please!」という娘のリクエストを受けて夫が最初に取り出した本は、私が待ち焦がれていた『The Rabbit Who Wants to Fall Asleep』ではなかった。

 

続く