けりかの草子

ヨーロッパ在住歴24年、現在英国在住のバツイチ中年女がしたためる、語学、社会問題、子育て、自己発見、飲み食いレポートなど、よろずテーマの書きなぐり。

娘の4歳の誕生日〜パーティー編⑭ ー 注:これは今年6月に他のメディアに投稿した記事のリサイクル版

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パーティールームのダンスフロアエリア

 

 

95%セルフサービスのパーティーフードをひと通り給仕し終え、お皿に食べ物が見えなくなった、あるいはお皿の上の食べ物が原形をとどめない状態になったころ、子供たちはテーブルがセッティングされたスポットの後ろにあるチェス盤のようなダンスフロアエリアへ進出し、そこに散りばめられていた風船で遊び始めた。

 

Sちゃんのハイグレードパーティーより高いスコアを獲得できた唯一のカテゴリーは、パーティールームの広さだ。Sちゃんのパーティーでは、子供たちを座らせると室内は満員状態で、壁側に設置された保護者用の長椅も参加者全員が腰を掛けれるだけのスペースはなかったため、パーティールームの外で数名の保護者が立ち見状態になっていた。私たちの会場のパーティールームは少なくともその4倍のスペースはあったと思う。子供たちは風船を追いかけまわし、楽しそうにはしゃいでいた。

 

ここのパーティープランでは、パーティールームを使えるのは45分間。残りあと10分というところで子供たちを再びテーブルにつかせ、バースデーケーキのロウソク火消セレモニーを行うことにした。

 

私は自宅を出る前、数字の「4」を模ったロウソク(保育園に持っていた手作りケーキで使ったもの)をビニール袋に入れ、他の小道具と一緒にショッピングバッグの中に入れたつもりであった。だが、役立たずの会場スタッフの女の子に「ロウソクをケーキにセッティングしてください」と言われて、ショッピングバッグも自分のハンドバッグも中身をひっくり返すほど探したが、見つけることはできなかった。これにはかなり焦ったが、幸いにも会場が白とピンクの螺旋ストライプの細いロウソクとダークピンクのものを数本用意してくれていた。すでに最低でも2度は使われたであろうものであったが、火を吹き消すという儀式だけが用途なのだから、環境問題も考慮に入れるとこれで十分だ。

 

長さがチグハグの使い古しロウソクを、ケーキ表面のアイシングに描かれている6人のディズニープリンセスの顔を崩さない位置に差し込み、マッチで火をともす。私がロウソクをセッティングしている間、夫は子供たちの保護者に「ハッピーバースデー・トゥ・ユー」の歌への協力を呼びかけて回った。保育園での火消セレモニーでは、「ハッピーバースデー・トゥ・ユー」を歌い終わったあと、伝統的な「ヒップ、ヒップ、フーレイ!」の3回喝采が送られたが、今回は歌だけで終わった。

 

保育園での儀式では、自分1人でやる自信がないから私に火消を手伝ってくれと言った娘だったが、このパーティーでは立派に独りで任務を全うすることができた。ケーキを運びながら歌の音頭をとったのは、海賊姿の夫。私はロウソクセッティング係から、この重要なシーンを画像に収めるカメラマンに変身した。

 

こちらでは、バースデーケーキは火消セレモニーのあとに切り分けてその場で食べるのではなく、「引き出物」のパーティーバッグと一緒にゲストの帰り際に配るのが主流のようだ。Sちゃんのパーティーでもそうだったし、その前にお呼ばれした別のお友達のパーティーでもそうであった。娘のパーティーでも自然とそういう流れになり、気の利かないスタッフに言つけて、切り分けたものをペーパーナプキンに1つづつ包んでもらった。ここで「しまった!」と思ったのは、切り分けたケーキを入れる可愛いお持ち帰り用ビニール袋を用意していなかったこと。Sちゃんのパーティーでは、切り分けたケーキは素敵なモチーフが印刷された透明のビニール袋に入れ、これまた可愛いリボンで袋の口を縛ってゲストに配っていた。このビニール袋とリボンが会場によって用意されたものなのか、それともSちゃんのお父さんとお母さんが手配したものなのかは不明であったが、こういったディテールへの配慮はパーティーを催すうえで大切なポイントだ。これを忘れるとは、なんともうかつだった。

 

ケーキの代わりにデザートとして配られたアイスクリームを嬉しそうに食べる娘を眺めながら、「ごめんよ、Aちゃん!お母さんはまだまだ未熟なダメ母だ!」と、自分への叱咤と娘への謝罪を心の中で繰り返した。

 

 続く

娘の4歳の誕生日〜パーティー編⑬ ー 注:これは今年6月に他のメディアに投稿した記事のリサイクル版

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この写真の中央にいる男の子2人は嬉しそうに羽根飾りをつけている

 

子供たちへの食べ物とドリンクの給仕をひと通り終えたとき、土壇場の思い付きで用意したティアラと「ネイティブアメリカン」の羽根飾りのことを思い出した。『アナ雪』テーマのパーティールームでエルサとオーロラ姫が給仕サービスをし、参加者数を上回る数のエルサとアナの子供用コスチュームさえ完備されていた、あのお友達(Sちゃん)のハイグレードなパーティーの足元にだけでも及びたい!という一心で揃えた重要な小道具だ。予算オーバーしてまで手配したものを使わずにパーティーを終えるわけにはいかない。


だが、サプライズ参加者が3名もいるため、この場にいる子供たち全員に配ろうとすると、ティアラが2つ、羽根飾りが1つ不足している。娘の仲良し3人組のひとりの子(Fちゃん)のお姉ちゃんは、先述のように娘たちより5歳ぐらいは年上で、サプライズ参加であったため遠慮してか、それともチビたちに交じるのはプライドが許さないためか、私と夫が何度誘ってもパーティーテーブルに子供たちと一緒に座るのを断り、お父さんと一緒に窓際の長椅子におとなしく腰かけていた。彼女にはティアラは必要ないであろう。だが、親が招待状への返事を怠ったためにサプライズゲストとなってしまったMちゃんは、娘のお友達だしプリンセス好きっぽいのであげないわけにはいかない。そこで私は独自の裁量で、10日前に(親が)招待状への返事をしたお友達(Aちゃん)の妹はサプライズゲストではないがスルーすることにした。


羽根飾りの方も同様に、3人目のサプライズゲスト(ハイグレードなお誕生日会を催したSちゃんの弟)をスルーすることを決めた。こうして私は女の子にはティアラ、男の子には羽根飾りを配り始めた。出だしはなかなかウケが良かったのだが、予想外のハプニングが2件発生した。男の子のゲストの1人であったKくんが、ティアラがいいと言って羽根飾りを受け入れてくれない。これではまたティアラが1つ不足する。何とか説得しようと試みたが、Kくんはティアラを離そうとしない。どうしたものかと気をもんでいると、第2のハプニングが発生した。だがその実、この第2のハプニングに助けられることになった。


第2のハプニングとは、ティアラをつけていた女の子のうち2人ぐらいが、ティアラが小さすぎて頭を締め付けるので痛いと言って返しに来た。これには少し落胆したが、おかげでスペアができ、Aちゃんの妹にもあげることができた。さらに、最初はブルーの羽根飾りのついたティアラを選んでつけていた娘までもが、これは痛いからヤダと、自分で持ってきていた大きめの王冠につけ替えた。結局、ティアラをつけてくれたのは2~3人の女の子だけ。一方、男の子の方はというと、こちらは思ったより好評だった(ティアラを気に入ったKくんは例外)。


給仕された食べ物でも、Sちゃんのハイグレードパーティーにはかなわなかった。Sちゃんのパーティーでは、フライドポテトとフライドチキン、ソーセージの後に続いて、ピザトースト、ハムサンドイッチとチーズサンドイッチが給仕され、その後さらにカップケーキとビスケットも出てきた。パーティープランの値段の差はほんの1ポンド程度なのに、設備、サービス、食べ物という実質上の中身の差は10ポンドぐらいあるように感じた。「競争してるわけではない。うちはうち、よそはよそ!」と自分に何度言い聞かせても、この理不尽さへの苛立ちと劣等感を完全に克服することができなかった私はやはり、プライドの高い見栄っ張りなのだろうか。


続く

娘の4歳の誕生日〜パーティー編⑫ ー 注:これは今年6月に他のメディアに投稿した記事のリサイクル版

 

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写真はパーティールームでのワンシーン

 

子供たちがガーデンエリアに進出した頃には、時計はすでに15時を過ぎていた。ここのパーティープランでは、75分間の「お遊び時間」に続き、45分間のパーティールームでのパーティーということになっていたので、あと少しで集合のお呼びがかかるだろうという時間だった。


ロンドン郊外から来てくれた日本人ファミリーのお母さんと立ち話をしているとき、私は予定外の参加者が3名もいる(参加者の姉1名&弟1名と招待状に返事をしなかったMちゃん)ことを彼女に愚痴った。すると彼女は、英国ですでに子供のお誕生日会を催した経験を持つ日本人ママ友達に、そういうことが平気で起こるから覚悟しておくべきとアドバイスされていると言った。やはり、日本人駐在員ファミリーのママ友達ネットワークはそのような情報の共有がしっかりしている。私はア夫近辺に住む日本人ファミリーの存在を知らないし、地元の非日本人ママ友達も皆初心者ばかりなのでこのような情報に疎い。


ヨーロッパ在住歴がすでに日本在住歴を上回ってしまった私だが、だからと言ってフランスやイギリスなど長年住んだ国の風習に精通しているわけではない。特に、娘が生まれるまで子供がいなかったため、学校制度やこのようなお誕生日パーティーのしきたりはまだまだ勉強中である。パリ時代の親しい友人や同僚の中にはもちろん子持ちが数多くいたが、私に子供がいなかったためか、子供のお誕生日会の企画・運営が話題になることはなかった。ただ一度だけ、今でも親しいポルトガル系フランス人の友人が、「お誕生日会はマクドでやるのが一番手っ取り早くてウケがいい」と言っていたのを覚えている。


まったくの余談になるが、フランス人は一般的にマクドナルドのことを「マクド」と呼ぶ。これは関西で主流の短縮形と同じだ。関東の人々は「マック」と言うらしいが、関西出身の私にとってもフランス人にとっても、「マック」はマッキントッシュのことだ。私にはフランスがとても肌に合っていたのは、こういう共通性のおかげなのだろうか。


時計を見ると15時10分を過ぎていたので、私はガーデンエリアにいるゲストにそろそろ中へ入るよう促した。カフェテリアのカウンターの方へ出向くと、待ち受けていたスタッフの1人が、パーティールームに移動する案内を放送すると言った。放送と共に子供たちを整列させ、スタッフに先導されて日本式2階のパーティールームへ移動した。


本来なら、ここで皆に手を洗わせるべきであっただろう。だが、控室の荷物をかき集めたり、まだプレイエリアにいる子供や保護者に声を掛けたりで、そのような余裕はなかった。我が子だけはなんとかウェットティシューで手を拭いてやったが、他の子は各自の保護者の責任ということで対応しなかった。


パーティールームの給仕用のテーブルには、揚げたてのフライドポテトとフライドチキン、出来たてのベイクドソーセージが載った大皿やフルーツサラダが置いてあり、その横にはオレンジジュース、クランベリージュース、お水のピッチャーがあった。テーブルにはすでにディズニープリンセスの紙製のお皿とナプキンがセッティングされていたが、予定外の参加者がいたため慌てて追加セッティングしなければならなかった。


子供たちが席に着いたので給仕を始めてもらおうと思ったが、給仕テーブルの横にはこれまたかなり若そうな女性スタッフが1人ボーッと突っ立っているだけ。しかもこのスタッフはここの制服らしきスウェット姿で、2週間前のお友達のパーティー会場のようなディズニープリンセスのコスプレサービスもない。


夫と私はまず子供たちにどのドリンクが欲しいか聞いて回った。それでも女性スタッフは動こうとしない。夫と私は懐疑心に満ちた顔で目を見合わせ、周囲の人々に分からないように小声のフランス語で「これって、セルフサービスなん?」とささやき合った。私はパーティールーム内をさっと見渡したが、あの若年パーティープランナーの姿はどこにもなかった。


パーティールームの窓際に低めの長椅子が並んでおり、保護者たちはそこに座って世間話の続きを楽しんでいるようであった。夫と私がサービスの悪さに苛立ち、込み上げてくるストレスを抑えようと奮闘しているのには気づいていない様子だ。私は笑顔でドリンクを給仕して回っていたが、内心はブチ切れ寸前であった。


気の利かない女性スタッフは、夫に促されてやっと食べ物の給仕を始めたが、「出来たてでまだ熱いから」という言い訳付きだった。それを聞いた夫は、再び小声のフランス語で「なんちゅうサービスの悪さ!おちょくられてるのか?」と私の耳にささやいた。私は笑顔を引きつらせながら、「完全におちょくられてる!」と答えた。


続く

娘の4歳の誕生日〜パーティー編⑪ ー 注:これは今年6月に他のメディアに投稿した記事のリサイクル版

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写真はガーデンエリアの遊具

 

 

娘は時に異様に大人びたことを大人びた態度で言う(英語のみだが)ので驚かされる。この日も、お誕生日パーティーに来てくれたお友達に、「Thank you so much for coming to my party! Please make yourself at home and have fun!」と非常に落ち着いた口調で言っては、お友達をギュッとハグしたり両手を包み込んだりして、こなれたホステスぶり(ここでは「女主人」のことを指し、キャバクラなどのホステスのことではない)を見せた。


子供たちが保護者の存在を意識せずに遊んでいるのを観察していると、こんなに幼い子供たちの間にもそれなりの勢力関係があるのが見えてくる。このパーティーでは、娘がなかなかの人気者である様子を目にすることができた。しかし子供というのは、最初は仲良しこよしに遊んでいても、ちょっとしたことでケンカになったり、おもちゃなどの取り合いで泣き出すといったインシデントを避けて通れない。ここでも、75分間の「お遊びタイム」に数回泣き声があがった。


保護者たちと世間話をしている間も、私は主催者として皆が楽しいひと時を過ごせているかさりげなくチェックしていた。子供の泣き声が聞こえる度にその主を見つけ出し(娘の泣き声はすぐに識別できる。さすが母親👏🏻)、なだめながら原因の究明と解決策の策定を同時進行させる。娘が泣かしの主犯でないことを確認するのが最優先事項だが、我が娘はめったに意地悪はしないし、無用な対立は避けるタイプだ(と私は信じている)。


男の子ゲストの1人が2度ほど泣き出したが、これは他の男の子ゲストと走り回っていてもつれ合いになり、頭や腕を打ってしまったからのようだった。なだめても泣き止まない場合は、当然のごとく保護者を呼びに行く。世間話->なだめ&保護者に報告->世間話のッルーティンを何度か繰り返しているうちに、あの、招待状に返事をよこさずに出席した女の子(Mちゃん)がジャングルジムフレームの中で独りシクシク泣いているのに気がついた。


この子は入場してすぐに娘たちと遊んでいたはず。もしかして娘が意地悪したのかと心配になり、急いでフレームをよじ登って何が起こったのか問いただした。だが、Mちゃんはシクシクするだけで、何が原因なのか明らかにしてくれない。娘が何か意地悪したのかと問うと、これには首を横に振った。


娘が無実であることを確認してホッとしたが、いくらなだめてもMちゃんは泣き止まないし、フレームからも降りようとしない。そこで私はお父さんを探しに行った。お父さんは控え室で夫や他のお父さんたちと男子会で盛り上がっていたが、Mちゃんが泣いていることを伝えると、心配する必要はないと言うだけで、いっこうに腰を上げる気配を見せなかった。


泣いている子をほっておくわけにはいかないので、私はプレイエリアに戻り、ジャングルジムによじ登った。Mちゃんを再びなだめていると、下からお父さんが「心配しないでください。この子は私が一緒に巨大滑り台を滑らないから拗ねて泣いているだけです」と言ってきた。Mちゃんはお父さんの顔を見ると、ジャングルジムを降りて再度お父さんにおねだりした。またお父さんに拒否されて大泣きになったとき、娘や他の子供たち数名が、「外にも遊具があるので皆で外に行こう!Come on!」とMちゃんにも声をかけた。Mちゃんは気を取り直して靴を履くと、娘たちと外へ飛び出して行った。


こうして子供たちの活動範囲はガーデンエリアにも広がり、保護者たちはホットドリンクを手に外のテーブルへと移動し始めた。

 

続く

娘の4歳の誕生日〜パーティー編⑩ ー 注:これは今年6月に他のメディアに投稿した記事のリサイクル版

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写真は子供に対応する海賊夫。左胸には名札スティッカー

 

先述のように、私たちは参加する子供たちの顔と名前は知っているが、彼らの保護者はあまり面識がない。そこでこの日の2週間以上前から、子供たちを連れ来る保護者に名前を書き込む名札スティッカーを配布する計画を立てていた。


これは事前にしっかり準備しており、必要な小道具はアマゾンプライムで注文してパーティーの1週間前には全て揃っていた。これらの小道具を参加者リストと共に受付のお兄さんに渡し、名札スティッカーに自分たちの名前を記入して胸につけるよう保護者にお願いしてくれと頼んだ。


時計を見ると、もう13:50であった。夫と娘を駐車場に呼びに行き、入場してから親娘3人控え室で待機した。一番最初に到着したゲストは、娘の仲良し3人組の1人であった。この子のお母さんとは何度も立ち話をしたことがあるし、名前も知っている。だが夫は2週間前のパーティーで顔を合わせただけであったので、名札スティッカーが大いに役立った。


次に到着した子のお母さんは、夫も私も初対面であった。子供たちは早速靴を脱いで控え室に用意されていたプラスチック製のバスケットに入れ、巨大ジャングルジムへ繰り出して行った。ロンドンの日本人ファミリーも無事到着。こうして次から次へとゲストが到着し、この保護者用名札スティッカーがいかに良策であったが誰の目にも明らかになった。


ある程度の人数が揃ったところで、海賊船船長の帽子にアイパッチ姿の夫は保護者にホットドリンクの希望を訊いて回り、カフェテリアのカウンターにオーダーしに行った。


しばらくして、娘の仲良し3人組のもう1人がお父さんと到着した。よく見ると、この子より5歳ぐらい年上のお姉ちゃんも一緒に来ている。一瞬「へ?」と思ったが、ファミリーを笑顔で迎え入れ、来てくれたお礼を述べた。この子のお父さんとは何度か顔を合わせたことがあるが名前は知らなかったので、ここでも名札スティッカーは非常に役立った。


カフェテリアに追加ドリンクをオーダーしに行っていた夫にこの子のお姉ちゃんのことを小声で伝えると、それは解決済みだとの返事が返って来た。ファミリーが到着した時に受付近くにいた夫が迎え入れ、お父さんから事情の説明を受けたそうだ。奥さんが仕事に出てしまっているため、上の子を1人で留守番させるわけには行かず連れて来たと。ここの入場料は子供1人につきで、付き添いの保護者は無料である。保護者から入場料を取らずとも、彼らは大抵の場合、子供たちを遊ばせている間にカフェテリアコーナーでお茶するので飲食料金で稼げるのだ。良心的というより、計算済みの商法であろう。 この子のお父さんは、夫が何も言わなくても上の子の入場料を払ったそうだ。


保護者ホットドリンクサービスは大ウケだった。名札スティッカーの効果も抜群で、控え室には和気あいあいとした雰囲気が漂っていた。だが控え室はスペースが限られており、椅子が数脚あるだけでテーブルがないため、巨大ジャングルジムの向かいのカフェテリアコーナーのテーブル席で世間話をしている保護者もいた。


ロンドン方面から来る私たちの友人とその2歳の息子からは、渋滞で30分ぐらい遅れそうだと連絡があった。一方で、会場の近辺に住む参加者の保護者たちは、渋滞はそれほどではなかったと口を揃えて言った。それでも私の警告メッセージは評判が良かった。


控え室にいた保護者たちと話しをしていると、受付スタッフが「ちょっといいですか?」と私を探しに来た。何事かと思っていると、参加者リストに名前がないゲストが受付に来ていると言う。娘のパーティーの招待状を持っているが、どうするべきかと私の指示を求めて来た。


招待状を出してからこの日まで、返事が一切なかった子(保護者の責任だが)は2人いた。自宅でするパーティーとは違い、こういう会場では最終参加者数を数日前にコンファームしなければならない。招待状に返事の締切日を書いておくべきであったのかもしれないが、私はそれぞれのマナーの常識を信じることにし、RSVPに締切日を追加記入しなかった。


「返事をしない」=「参加しない」と決めつけていたが、まさか当日にそのうちの1人がやって来るとは!受付に行くと、心配そうな顔をした娘のお友達が、何が起こっているのかイマイチ理解出来ていない様子のお父さんと立っていた。


私はお父さんに挨拶をすると、返事がなかったので来れないものと思っていたとフレンドリーな笑顔で言った。するとその子お父さんはバツの悪そうな表情で、今朝突然に奥さんから招待状とラッピングされたプレゼントを渡され、この子をパーティーに連れて行くように頼まれたのだと説明し、返事をしていなかったとは知らなかった、申し訳ないと謝った。


お父さんは確かに無実に見えたし、何故中に入れてもらえないのか理解出来ないこの子は今にも泣き出しそうな顔をしている。この子に罪はない。全く問題はないので中へどうぞ、よく来てくれました!と言い、私は聖母のような慈悲に満ちた笑顔で2人を迎え入れた。


続く

娘の4歳の誕生日〜パーティー編⑨ ー 注:これは今年6月に他のメディアに投稿した記事のリサイクル版

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写真は外注したバースデーケーキ

 

たかが4歳児のお誕生日パーティーで競争心を燃やすつもりはないのだが、やはり親というものは見栄と意地に翻弄されてしまう定めにあるのだろうか。あの2週間前のお友達のパーティーは、会場もサービスも手作りケーキもみなグレードが高かった。そのお友達ももちろん娘のパーティーに参加することになっているし、この子のパーティーを経験した他のお友達も数名娘のゲストになっている。あまりにも引けを取る催しでは主役の娘が可哀そうだ(というより親のプライドが許さない?)。「うちはうち、よそはよそ!」と何度自分に言って聞かせてもプレッシャーは収まらない。


会場のグレードの高さでは、どうあがいてもかなわない。だが、参加者の多くがこの会場から車で15分以内の距離に住んでいるため、交通の便という点では私たちのパーティーのほうが若干スコアが高いかもしれない。ところが当日になって、この予期せぬ交通渋滞というニュース。これではせっかくのアドバンテージもおチャラになるだろう。ケーキはご存知のように外注品。パーティーバッグは会場が提供するグッズ次第だが、私たちが独自に用意したものをプラスすれば、引けを取ることはないと思う。さらにプラスチック製ティアラとアメリカンインディアンの羽根飾りという豪華なおまけつきだ。


パーティーで振る舞われる温かい食べ物とソフトドリンクは子供が対象であって、基本的に保護者へのサービスはない。これは、あのお友達のパーティーでもそうであり、保護者は自分たちで適当にコーヒーや紅茶をカフェテリアで自費オーダーしていた。そこで以前から夫は、保護者のドリンクも私たちで負担して、「ケリー家のおもてなし」タッチを加えようと提案しており、私もそのつもりにしていた。この「保護者おもてなしサービス」でかなりのスコアを稼ぐことができるだろう。後はやはり、パーティールームの装飾と給仕される食べ物の質、そして給仕サービスのレベルが重要な評価ポイントであろう。


道中そんなことを考えていた私だが、途中で男の子用のアメリカンインディアンの羽根飾りが1つ足りないことに気づき、ドライバーの夫に急きょ目的地を変更するよう頼んだ。私の性格をすっかり把握している彼は、呆れた態度を見せることなく近所のパーティーグッズ専門店へ進路を変更してくれた。ついでに大人用(自分用)の海賊船船長の帽子も買ってきてくれと言われたが、もう店内のレイアウトがしっかり頭に入っている私は迷うことなく目的の品々が陳列されているスポットに向かい、3分も経過しないうちに任務を完了して車に戻ることができた。


交通渋滞は私たち側の車線はそれほどでもなく、通常より数分余計にかかっただけで無事パーティー開始の25分前に会場入りすることができた。娘が車内で眠り込んでしまったので、夫と娘は駐車場で待機し、私だけ先に小道具類を持って中に入ることにした。


受付で名乗ると、「パーティープランナー」だと自己紹介する若い女の子が出てきた。「女性」ではなく「女の子」という表現を使っているのは、彼女があまりにも幼く見えたからだ。一般的に東洋人よりも老けて見える西洋人だが、天然パーマっぽい金髪に小さな青い目のこの子は、どう見てもティーンエイジャーにしか見えなかった。この若年パーティープランナーに案内されて、日本式1階にあるパーティーゲストの「控室」を視察し、次に日本式2階のパーティールームをチェックしに行った。


この部屋は、あのお友達が使ったパーティールームの4倍近い広さだ。だが、装飾と言えば、壁に「HAPPY BIRTHDAY」のカラフルな文字のバナーが貼り付けられていて、真ん中にセッティングされた子供用の長テーブルにビニール製のディズニープリンセステーブルクロスがかかっている程度だ。よく見ると部屋の奥の隅に、『美女と野獣』のベルと『眠れる森の美女』のオーロラ姫、そしてシンデレラが描かれたボール紙のボードが立っている。シンデレラとオーロラ姫の顔の部分がくり抜かれていて、子供たちがそこから顔を出せるようになっている。部屋の手前半分のスペースはフローリングだが、奥半分はチェス盤のような白と黒の升目模様のフロアになっており、そこに20個ぐらいの風船が転がっていた。パーティールームの装飾では完全に負けだ。だが、この広さは子供たちにも保護者にもウケるかもしれない。


質素な飾り付けに落胆した私だったが、気を取り直してケーキと食べ物をチェックすることにした。入口の右の壁側に給仕テーブルが設置されており、ケーキはここに展示されていた。注文通りディズニープリンセスものだ。白雪姫、ベル、オーロラ姫、シンデレラ、『リトルマーメイド』のアリエル、そして『アラジン』のジャスミンが描かれたアイシングには、「HAPPY 4TH BIRTHDAY Princess ALISA!」と印字されている。やはり私の手作りケーキよりずっと美しい。しかも、娘がリクエストしていた「白雪姫ケーキ」に近いものだろう。


食べ物は給仕する直前に持ってくるということなので、このテーブルにはまだ置かれていなかった。次にチェックを入れたのは会場が用意したパーティーバッグ。女の子用は非ディズニー系プリンセスの塗り絵・工作・シールセットに棒キャンディーがひとつ入ったパック。男の子用は海賊(これまた非ディズニー系)の塗り絵・工作・シールセットに棒キャンディーがひとつ入ったパック。悪くはないが、やはり自分たちで追加パーティーバッグを用意しておいてよかったと思った。女の子用のパックの数が足りないので補足してくれるようにパーティープランナーに頼むと、私はこのテーブルの上にプラスチック製ティアラとアメリカンインディアンの羽根飾りを体裁よく並べ、参加者リストを渡すために受付に戻った。


続く

娘の4歳の誕生日〜パーティー編⑧ ー 注:これは今年6月に他のメディアに投稿した記事のリサイクル版

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写真が例のティアラ

 

 

夫も私も、例え土壇場で思いついたことでも実行に移さないと気が済まないタチである。この日も、パーティーの数時間前にあることを思いつき、そのアイデアを実現させるために奔走した。


イデアというのは次のようなものだ。以前から夫が参加する子供たちの保護者に海賊の帽子やアイパッチを配布して仮装してもらおうと提案していたが、保護者ではノリが悪いかも知れない。そこで、子供たちを対象にして、女の子はプリンセスティアラ(紙製)、男の子は海賊のバンダナとアイパッチを配ろうと思いついた。


こういう小道具は、最低でもイベントの1週間前には手配するのが常識であろう。しかし、思いついたのがイベント当日の朝。無謀極まるがやってみないと気が済まない私は、近所のパーティーグッズ専門店へ車を飛ばした。このパーティーグッズ専門店は、外から見るとオシャレなものは置いてなさそうな、ひなびた小さな店なので今まで中に入ったことはなかった。


だが、イベントまであと数時間という切羽詰まった状況では、他に選択肢はない。さすがのアマゾンプライムでも、注文して1時間後に配達は無理であろう。ありがたいことに、車で5分もかからない近所にこのパーティーグッズ専門店がある。中に入ってみると、意外にも4〜5人の客で賑わっていた。


早速お目当ての紙製ティアラと海賊バンダナ+アイパッチを探す。ところが、大人の怪しい系コスプレパーティーグッズばかりで、子供のパーティー用品と言えば、40ペンスでヘリウムを入れて膨らませるサービスも提供されている風船か、いかにも安物っぽいパーティーバッグ用のおもちゃだ。


この店は家族経営と思われるが、店内には物腰の柔らかい初老の女性と彼女の娘と思しき若い女性が注文していた風船を取りに来た客の対応に追われていた。少し待ってやっと落ち着いてきた時、この初老の女性に私が探しているもの伝えた。


初老の女性は少し戸惑ったような表情を見せ、紙製のティアラはないが、プラスチック製のものならあると、店の奥に案内してくれた。すると、レンタル用のコスチュームコーナーの入口に、羽根飾りがベースについたプラスチック製のティアラがいくつか引っ掛けられているボール紙製スタンドがあった。


子供たちにぴったりの大きさのようだが、果たして人数分あるのだろうか。娘のパーティーに参加する女の子は、娘本人を含めて8人。数えてみると、奇跡的にぴったり8個あるではないか!これは日頃の行いが良かった報いだろうか。お値段的にはかなり予算オーバーであったが代替品はないし、せっかくのアイデアを実現させずに諦めたくはない。そこで私は、他の客に取られてしまわないよう、8個のプラスチック製ティアラを抱え込んだ。


次に入手すべきものは、男の子用の海賊バンダナとアイパッチ。ところが、これは大人用しかなく、子供でも使えるのは、アメリカンインディアンの羽根つきヘッドバンド(注: 英語では差別語を避けるためか、Native American Feather Head Bandと表記されていたと思う)のみ。仕方がないので、これを人数分買うことにした。


とりあえず目的は果たしたので大急ぎで帰宅し、お昼ご飯の用意をした。パーティーは14時からだが、主催者である私たちは最低でも15分前には会場入りするように言われていた。だから早めにランチを済ますことにしていた。ランチの途中で会場から電話があり、近辺の主要道路が閉鎖されているために大渋滞が発生していると警告された。この辺の地理と道路に詳しい夫は早速おすすめルートを策定し、それを私が参加者の保護者にテキストメッセージで拡散した。


こうしているうちに私たちが家を出発すべき時間になった。約束通り夫が娘を説得し、私が計画していた衣装に着替えさせることに成功した。パーティーバッグやプラスチック製ティアラとアメリカンインディアンの羽根飾りなどの小道具を夫の車に積み込み、娘をシートに座らせてシートベルトをはめ、いざ家を出発した。


続く